研究課題/領域番号 |
21K20347
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
野本 哲也 東京大学, 物性研究所, 特任研究員 (00908650)
|
研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
|
キーワード | 熱伝導 / 超強磁場 / フラッシュ法 / 量子スピン系 / 磁化プラトー |
研究実績の概要 |
本年度は主に、パルス強磁場中における熱伝導率測定のための装置開発を中心に研究を行った。まず温度計として用いる薄膜(Au-Ge合金)として最適な抵抗値や温度依存性を比較検討し、4He温度でも問題なく動作することを確認した。また、この温度計を測定試料上に実際に形成し、磁場中での加熱に対する応答や信号の精度などを検証した。 測定試料としてはシャストリー・サザーランドモデル物質であるSrCu2(BO3)2を選択し、39Tまでの強磁場中で熱伝導測定を実施した。結果、非常にS/N比の良い温度-時間曲線を得ることに成功し、熱伝導率の磁場依存性をよい精度で得ることに成功した。非定常法による熱伝導率測定としては39Tという磁場は世界最高クラスである。また、磁気構造の変化に伴って熱伝導率が強く抑制されるという、定常磁場下における測定結果と定性的に一致する結果が得られた。今後得られたデータの再現性を確認し、他の磁性体に対象を広げて測定を継続する予定である。また、測定試料の自己発熱によるベース温度の変化が測定上の課題として浮上したため、PID制御などを用いた高精度な温度制御システムの確立も今後検討する。 パルス強磁場下の測定と並行して、PPMS内で測定可能な定常磁場下熱伝導率測定装置の開発と測定プログラムの作成を行った。測定装置とLabviewによる測定システムを確立し、実際に参照試料を用いて定常法による熱伝導測定のテストを行った。今後パルス磁場中での測定結果と比較しながら精度向上を目指す。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
強磁場発生用のフライホイールシステムの不調などもあり、実際の実験開始時期の遅延などはあったものの、当初の計画通り熱伝導測定システムの確立と量子スピン系物質を用いた測定テストを成功することができた。また、実際に強磁場中の磁気構造の変化に伴う熱伝導率の変化を観測することができており、計画進行は順調である。測定精度も想定よりもよく、今後測定対象を拡大することも問題なく実施できると考えられる。定常磁場下測定のシステム構築は冷却系の問題で若干遅延しており、次年度の重点課題としたい。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の大きな目標としては、パルス強磁場下での熱伝導率測定を様々な量子スピン系に適用し、磁気構造変化と熱伝導率の変化の相関関係を明らかにすることである。また、理論的に提唱されているスピンによる熱伝導の検出とその変化を観測することを目指す。ターゲットとしては磁場誘起スピン液体候補α-RuCl3などを目標とする。さらに熱センサーの最適化条件などをより深化させ、測定の高精度化をさらに推し進めていく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
購入する物品の費用と納期の問題で若干の残額が発生した。購入計画に大きな変更はなく、測定装置の購入(電流ソース等)で全額使用する予定である。
|