研究課題/領域番号 |
21K20348
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
戸田 賀奈子 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (00908387)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | 天然有機物 / C-S-H / M-S-H / N-A-S-H |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、放射性廃棄物処分場での使用が検討されている建設材料の構成相であるカルシウムケイ酸水和物(C-S-H)、マグネシウムケイ酸水和物(M-S-H)、ナトリウムアルミノケイ酸水和物(N-A-S-H)の放射性核種(RI)の収着能や拡散能に影響する微細構造に対して、天然有機物(NOM)による変質作用とその反応機構を明らかにすることである。今まで明らかにされてこなかったNOMによるC-S-H、M-S-H、N-A-S-Hの変質を理解することで、NOMがセメント系材料のバリア性能に与える影響を体系的に解明し、その影響を示すことが本研究の意義であり、重要性を持つ点である。本研究の実施計画は、NOMによるケイ酸塩水和物の微細構造変化の実験的検討と、材料スケールでの変質の解明からなっており、本年度は前者を実施した。模擬NOMとしてアルドリッチフミン酸を用い、その添加量を段階的に変化させ、C-S-H、M-S-H、N-A-S-H粉末の合成試験を実施した。なお、C-S-HとM-S-Hに関しては異なるメタル/Si比を取るものがあると知られているため、複数種合成している。合成した試料に対し、X線回折分析を実施して認められた構造変化は、C-S-Hの底面間隔のみであった。なお、C-S-Hに対して実施した29Si-NMRにおいては、シリケート鎖の重合度がNOM添加量の増加とともに変化することが認められ、微細構造変化が生じることが明らかになった。異なる金属イオンで構成されるC-S-H、M-S-H、N-A-S-Hに対するNOMの作用は、C-S-Hが最も影響を受けやすいことが示唆された。その理由とも言える反応機構の差に着目し、来年度も研究を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
年度研究計画に記載のあったNOMによるケイ酸塩水和物の微細構造変化に関して、分析対象となる試料作成を完了し、X線回折分析、29Si核磁気共鳴法、中性子小角散乱による測定を実施した。なお、実施予定のX線小角散乱においては、2022年度においてビームタイムの確保が完了し、実施の目処が立っている。実験結果より、異なるケイ酸塩水和物に対するNOMの作用は、その種類により異なることが示唆され、C-S-Hに関しては、微細構造に影響するシリケート鎖の構造が変化することが明らかとなった。シリケートが鎖状であると言われるC-S-H、シート状であると言われるM-S-H、三次元構造(ゼオライト構造)を持つといわれるN-A-S-Hに対して、NOMの作用がどう異なるのかを解明するために、来年度も継続して合成試料に対するSANS、SAXSの分析を行う。2022年度に実施予定のNOMによる材料スケールでの変質の解明はC-S-H、M-S-H、N-A-S-H固化体に対してNOM溶液を用いたバッチ変質試験を実施する予定であり、その試料作成は完了している。以上より、本研究は概ね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の推進方策は当初の計画通り、C-S-H、M-S-H、N-A-S-Hからなる固化体を作成し、その変質を固化体という材料スケールで明らかにすることとしている。NOM水溶液と反応させたそれぞれの固化体に対して、反応界面からの変質の深度分布を理解する実験を実施し、2021年度に実施を計画したケイ酸塩水和物のNOMによる変質作用に対する様々な分析結果と照らし合わせる。なお、固化体は半割ののち、片方は分割した面の電子顕微鏡による観察分析に供する。もう片方は、反応界面からの深度ごとによるサンプルの分取を行い、NOMによる変質作用の分布をより詳細に分析するために、29Si-NMR、X線回折分析等に供する予定である。なお、2021年度に合成したC-S-H、M-S-H、N-A-S-H粉末試料に対して、2022年度も継続してSANS、SAXSの測定を行い、研究計画で実施予定であった実験内容を完遂する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定だった消耗品(イオン選択電極消耗品)が、3月のうちに納品されないことになり、次年度使用額が発生した。来年度も使用予定の消耗品なので、2022年度に使用したい。
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