本研究は、建設材料のマトリックスである様々な非晶質ケイ酸塩水和物の化学組成や重合構造等に対する天然有機物(NOM)の作用を体系的に明らかにし、その作用が地中での放射性廃棄物処分の核種移行に影響する可能性があるか検討した。一般的な地下水の有機炭素濃度よりもオーダーで有機炭素濃度の高い場所が存在する我が国の環境下では、この影響を検討する意義がある。なお、放射性廃棄物処分へ利用される建設材料の候補のセメント、低アルカリセメントやジオポリマーは異なる非晶質ケイ酸塩水和物からなる。よって、模擬NOMのカルシウムケイ酸水和物(C-S-H)、マグネシウムケイ酸水和物(M-S-H)、ナトリウムアルミノケイ酸水和物(N-A-S-H)の化学組成やその構造に対する影響を検討した。前年度は模擬NOM共存下で各非晶質ケイ酸塩水和物を合成し、その微細構造変化の実験的検討を実施した。中でもC-S-Hが最も模擬NOMによりケイ酸の重合度や底面間隔といった構造が変化すると示唆された。本年度は材料スケールでの変質の解明に関わる研究を実施し、各非晶質ケイ酸塩水和物からなる固化体の模擬NOM溶液による変質試験を実施した。各固化体は表層から中心部にかけて模擬NOMが収着・拡散したが、6ヶ月の試験期間のうち、ほとんどが表層からmmオーダーの分布に留まると示唆された。しかし、その拡散幅や、模擬NOMによる固化体表層のケイ酸の重合度の変化は各非晶質ケイ酸塩水和物により異なった。これは、ケイ酸ポリマーの重合状態や、平衡溶液のpHの違いによる模擬NOMの反応性、固化体中の空隙の状態の違いにより生じることが示唆された。以上より、NOMとセメント系材料の相互作用は、NOMの材料への収着・拡散と、ケイ酸塩水和物の構造変化が生じる可能性、すなわち放射性廃棄物処分の核種移行に影響する可能性が示唆された。
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