研究実績の概要 |
非平衡的な水素吸蔵により準安定水素化物を形成し, 安定状態への緩和時間を電気伝導測定により観測することで, 低温における水素の拡散頻度を計測した. さらに共鳴核反応法(NRA)とイオンチャネリングを組み合わせたチャネリングNRAとモンテカルト法を用いたビーム径路計算の比較により, 結晶中の水素の格子位置をパーセントオーダーで解析できるようになった. 本研究では, 水素吸蔵金属であるPdと水素難溶であるPtにおける水素の拡散を調べた. Pd水素化物を急冷することによって形成された準安定状態からの緩和から, 低温における水素の拡散頻度を計測した. 熱拡散から量子拡散へなめらかに遷移することがわかった. 水素のシュレディンガー方程式を解くことでPd中水素の量子状態を解析したところ, 振動励起準位を介したトンネルによって八面体サイトと四面体サイト間に拡がった状態があることがわかった. それが拡散機構の遷移の仕方に現れ, さらにトンネル前後のエネルギー準位マッチングがトンネル頻度に重要であることを明らかにした. またPdナノ薄膜に水素イオン照射することによって形成された準安定状態からの状態緩和の拡散頻度を計測した. チャネリングNRAを用いた構造解析により, 状態緩和が四面体サイトから八面体サイトへの水素の移動であることがわかった. 低温では温度にほとんど依存しない量子拡散が観測され, 同位体による大きな拡散頻度の違いが見られた. 同様の実験をPtナノ薄膜に対しても行ったところ, ある温度領域では同位体に依存しない量子拡散が見られた. Pt中では水素が格子歪みを伴う集団運動をしていることが示唆された. 本研究は, 抵抗測定とチャネリングNRAを組み合わせることで, 拡散径路まで含めた水素の低温における拡散を評価する方法を確立した.
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