研究課題
本研究は,新規レアアース資源として注目される深海堆積物「レアアース泥」について,魚類の歯化石「イクチオリス」の観察とオスミウム同位体比分析を実施することにより,資源形成のメカニズムを解明することを目的としている.2021年度は,化石観察の効率化を目的とした,深層学習を用いた微化石の検出システムについて検討を行った.報告者らが予察的に検討していた,物体検出モデル「Mask R-CNN」を用いた検出手法では,化石以外の粒子を化石と認識してしまうエラーが多数存在することが課題となっていた.この課題を踏まえ,報告者は,物体検出モデルで検出されたすべての粒子について,画像分類モデル「EfficientNet-V2」で再分類を行うことで,精度が格段に向上することを明らかにした.本研究成果は国際誌Applied Computing & Geosciencesに投稿済みであるほか,論文のプレプリント,関連するプログラムコード,データセットをオンラインで公開している.本研究成果により,従来研究では膨大な時間と手間を要していた化石を探し出す作業を自動化させることができ,観察プロセスが格段に効率化された.また,画像処理を行うことで化石の長さや縦横比といった数値を取得できるようになり,今後はビッグデータを用いた統計的解析などへと発展していくことも期待される.さらに,北西太平洋の深海堆積物コアODP Site 1149におけるレアアースの異常濃集層付近を対象としたオスミウム同位体比分析を実施した.この結果は,今後実施する化石観察の結果と照らし合わせて解釈する予定である.
2: おおむね順調に進展している
上述した2021年度の研究成果により,効率的な化石観察の手法が整備された.化石観察に必要な作業の大半が自動化されたことにより,今後は別の作業と並行しながらデータを蓄積することが可能になった.さらに,オスミウム同位体比分析の手法にも習熟し,分析の前処理や装置の立ち上げといった作業を報告者一人で実施できるようになった.これらのことから,効率的にデータを生産する基盤が整備されたといえる.
2022年度は,対象とする9本のコアについてレアアース濃集層周辺を対象に,確立した効率的な化石観察を行うとともに,オスミウム同位体比分析を実施する.これにより,海底堆積物にレアアースの濃集が生じる時代と場所を決定するとともに,そこで生じた生物相や海洋環境の変遷を読み解く予定である.
イクチオリスの検出に用いたプログラムコードをGitHubにて公開した.また,用いたデータセットをMendeley Data にて公開した.
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https://github.com/KazuhideMimura/ai_ichthyolith
https://github.com/KazuhideMimura/eNetV2_for_ai_ichthyolith
https://data.mendeley.com/datasets/zdpz6m9gzf/1