研究課題/領域番号 |
21K20355
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
池田 晴國 学習院大学, 理学部, 助教 (30911763)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | 統計物理 / 非平衡 / 相転移 / 粉体 / ジャミング転移 / 数値シミュレーション / レプリカ対称性の破れ |
研究実績の概要 |
粉体のように短距離相互作用する粒子系は、低密度では、流体のように振る舞う。しかし、密度を増加させていくとある密度で剛性を獲得し固体のように振る舞い始める。これがジャミング転移と呼ばれる現象である。ジャミング転移は、非平衡な古典多体系が示す、最も簡単な相転移のうちの1つであり統計力学の観点からも興味深い題材である。 本研究の最終目標は、現実の、摩擦があり複雑な形状をした粒子からなる系のジャミング転移を理解することであるが、その前段階として、今年度は、まず、摩擦が無い理想的な系におけるジャミング転移について数値シミュレーションを用いて詳細に研究した。摩擦が無い球形粒子について大規模数値シミュレーションを行い、有限サイズ効果も考慮して臨界指数を決定した。その結果、興味深いことに、この系の臨界指数は、2次元以上では一定の値を取ることが明らかになった。さらに、臨界指数の値は、レプリカ法と呼ばれる平均場理論から予想されるものと正確に一致した。レプリカ法とは、元々スピングラス等のフラストレーションを扱うために開発された方法で、レプリカ対称性とよばれる特殊な対称性が破れることを前提とした理論である。したがって、数値計算とレプリカ法の結果の一致は、ジャミング転移点近傍で、レプリカ対称性が破れていることを強く示唆している。今後は、非球形粒子や、摩擦が存在する場合におけるレプリカ対称性の破れの可否について研究を進めたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
先行研究等を調べていくうちに、ジャミング転移を起こす最も簡単模型である、摩擦が無い粒子からなる系におけるジャミング転移においてさえも、いくつかの重要な臨界指数については、数値シミュレーション等による十分な検証がなされていないことに気がついた。そこで、本年度は、予定を変更して、摩擦が無いジャミング転移の臨界指数を、有限サイズ効果も考慮した大規模数値シミュレーションを用いて検証した。本来の予定であった摩擦がある系のシミュレーションについては、来年度以降行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後はまず、摩擦が無い非球形粒子において、球形粒子の場合に見られたようなレプリカ対称性の破れが存在するのかを明らかにする。申請者は、過去に平均場理論による計算を行い、非球形粒子からなる場合でも摩擦が無ければジャミング転移移転近傍でレプリカ対称性が破れるという結果を得ている。しかし、平均場近似が予想する対称性の破れが、実際の三次元、二次元系で観測されるとは限らない。実際に、スピングラス系では、四半世紀以上前に平均場理論によってレプリカ対称性の破れが起こることが予言されていたが、有限次元で実際にレプリカ対称性が起こるか否かは未だ決着がついていない未解決問題となっている。こういった背景があるので、ジャミング転移においても、平均場理論による計算だけでなく、その妥当性を数値シミュレーション等によって検証することが必要不可欠であると考えている。 摩擦が無い非球形粒子におけるレプリカ対称性の破れについて調べた後は、使用したコードを改良し、摩擦の効果を取り入れた場合にどのように結果が変化するのかを調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、助成金の主な用途は、フランスでの共同研究のための旅費と、研究に必要となるPC等の備品の購入であった。しかし、コロナウイルスの蔓延のため、当初予定していたフランスへの渡航を取りやめざるおえなくなった。また、PC等の備品の購入については、所属している大学から十分な補助があったため、本年度分の助成金を来年度に繰り越すことにした。 繰り越した助成金は、来年度分の助成金と合わせて、クラスター計算機の購入に使うことを検討している。
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