研究課題/領域番号 |
21K20356
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
船戸 匠 慶應義塾大学, グローバルリサーチインスティテュート(矢上), 特任助教 (10908700)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | スピントロニクス / スピンダイナミクス / スピン起電力 / 表面弾性波 |
研究実績の概要 |
本研究では、物体の静的な歪みとスピンの結合を利用したスピン流生成機構の理論的な解明を目指している。その前段階として、表面弾性波に伴う動的な格子歪みを利用したスピン起電力について解析を行った。 モデルとして、外部磁場が印加されている強磁性金属へ表面弾性波が注入されている場合を考える。この時、表面弾性波に伴う格子の回転変形(反対称歪み)と伝導電子スピンはスピン・渦度結合により結合することが知られている。また同時に、格子の歪み変形(対称歪み)と局在磁化は磁気弾性結合を通して結合する。この二つの効果が伝導電子スピンと局在磁化の結合であるs-d交換相互作用によって組み合わさることで、表面弾性波の進行方向および深さ方向へ直流および交流起電力が生じることを見出した。さらに、本研究で提案するスピン起電力(スピン弾性起電力と呼ぶ)には表面弾性波の伝搬方向と外部磁場の印加方向について特徴的な非相反性が現れることが分かった。また、磁気弾性効果の強いニッケルを強磁性金属として用いる場合に発生する起電力の大きさを見積もったところ、数十nV程度の実験で観測可能な程度の起電力が発生することが分かった。本研究におけるスピン起電力は、表面弾性波デバイスさえ用意すれば、強磁性金属単膜という貴金属を必要としないシンプルなデバイス構造において実現するため、新奇の表面弾性波デバイスとしての応用が期待される。この研究成果はPhysical Review Letters誌に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、格子の静的な歪みと電子スピンの結合を利用したスピン流生成機構の理論的解明である。その前段階として行った表面弾性波によるスピン起電力の解析についてまとめた論文が物理学分野のトップジャーナルであるPhysical Review Letters誌に掲載されるという大きな進展があった。スピン起電力の解析には、表面弾性波に伴う動的な格子歪みと電子スピンの結合について様々な知見が得られた。この知見に基づいて、現在は静的な格子歪みと電子スピンの結合について理論構築を行っている。具体的には、物体が一軸周りにねじれているような(回転変形が座標依存するような)差動回転系において、格子回転と電子スピンの結合について理論的な解析を行っている。また、格子変形の曲率と電子スピンの結合について、結晶の対称性に基づいた群論の手法を用いた解析も行っている。以上のことから、本研究は当初の目的へ向かっておおむね順調に進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の目的である静的な歪みと電子スピンの結合を利用したスピン流生成機構を解明するために、まず格子が一軸周りにねじれるように回転変形している差動回転系をモデル化して、力学的なスピン流生成機構の解析を進めていく。差動回転系はシンプルなモデルであるために、格子変形と電子スピンの結合を考察する上で最適な系であると言える。現在は、動的な変形をさせた場合に生成されるスピン流について解析を進めている。その後に、動的な変形の場合に得られた知見に基づいて、静的な格子歪みが印加されている系についてモデル化し、電流・スピン流変換について微視的な解析を行っていく。また、微視的な解析のほかに、群論の手法を用いることで、結晶の対称性を絡めた格子歪み誘起のスピン流生成機構について解析を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、中国科学院大学の松尾衛准教授と対面でディスカッションを行うための旅費や国際学会への旅費および参加費を予定していたが、コロナウイルス蔓延の状況から止む無く次年度へ繰り越さざるを得なかった。
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