本研究を遂行することで得られた成果は、大きく二つである。第一に、核融合科学研究所のセシウム添加型負イオン源から引き出された単一のビームに内在する複数のビーム成分に対して、ビーム径方向における速度分布の全貌を実験的に明らかにする手法を確立した。また、実験的に取得された離散的なビーム位相空間構造に対して、カーネル密度推定法を用いて連続的な位相空間構造を再構成する手法を提示した。実験に基づいて取得されたこれらの速度空間及び位相空間における粒子情報は、時間反転させたビーム軌道の数値計算に対する入力値を与える。ビーム軌道の逆流計算により、ビーム引出界面における負イオンの密度分布や速度分布を知ることが原理的に可能となる。これにより、ビーム集束性改善に向けたビーム加速器電極の幾何構造の最適化、セシウム添加量の最適化などへの貢献が期待される。負イオンビームに内在する複数速度分布成分の起源については、未解明の課題として残されている。しかしながら、各速度分布成分の起源を同定するための重要なパラメータとして、各成分の含有率を提示し、その評価手法を確立した。この研究成果は、米国物理学協会の学術誌であるAIP Advancesで報告され、Featured Articleとして選出された。第二に、表面生成を起源とする負イオンビーム成分の速度空間及び位相空間のおける挙動を明らかにするために、研究代表者が所属する日本大学生産工学研究所で負イオン源及び診断用ビームラインを構築した。当該装置を用いることで、ビーム加速器電極系の幾何構造やセシウム添加量を走査パラメータとして、ビーム径方向の速度空間及び位相空間における粒子の挙動を明らかにすることが期待される。
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