半導体等においては物質への光照射で「励起子」と呼ばれる不安定な粒子が生成されることが知られているが、この粒子は現代の量子デバイスの動作の根本を担う極めて重要な粒子である。 本研究課題の目的は、近年発見された「励起子絶縁体」と呼ばれる新規物質において発現する安定的な励起子(自発的励起子)の生成メカニズムを解明することである。本研究においては、光電子分光と呼ばれる実験を主に用い、それら自発的励起子が物質中に存在する状態と存在しない状態の境界付近の環境下において、自発的励起子の性質とそれらの変遷を詳細に評価することで生成メカニズムの謎に解き明かそうとする研究計画である。 初年度である2021年度においては、(1)「励起子絶縁体」における自発的励起子の密度が理論予測通り温度変化に伴って変化する現象の観測、(2)「狭ギャップ半導体物質」(カルコゲン置換により励起子絶縁相が消失した励起子絶縁体)における自発的励起子の観測、が成果として挙げられる。 2022年度(最終年度)においては、当初の目的である自発的励起子生成のメカニズムを探るため、温度だけでなく、カルコゲン置換量を精密に制御し、励起子絶縁体と狭ギャップ半導体の境界線近傍に位置する物質を用いた実験を行った。これらの詳細評価により自発的励起子相と通常相の境界近傍における自発的励起子の発生・消失過程の観測に成功した。 一連の研究により、自発的励起子がその消失に近づくにつれて、密度が減少するだけでなく励起子自体のサイズが増大しておりその束縛力の減少が連続的に起こっているであろうとの示唆を得た。これは、自発的励起子がこれまで考えられてきた特殊な物質のみならず、より広く産業応用されている半導体物質等においても物質設計により発生させることが可能であることを示唆する重要な成果であると考える。
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