研究課題/領域番号 |
21K20363
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
桜井 亘大 東北大学, 理学研究科, 特任助教 (70910256)
|
研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
|
キーワード | 拡張ヒッグスセクター / 軽いスカラー暗黒物質 / ヒッグスボソンの暗黒物質への崩壊 / 荷電ヒッグス粒子の崩壊分岐比 / 輻射補正 |
研究実績の概要 |
軽いスカラー新粒子を含んだ拡張ヒッグスセクターを持つ模型の一つしてNext-to-Two Higgs doublet model (N2HDM)と呼ばれる模型を取り扱った。この模型で予言されるCP-evenスカラー新粒子は、模型に課される離散対称性により崩壊せず暗黒物質候補となり得る。125GeVヒッグスボソンがこの軽いスカラー暗黒物質へ崩壊する過程に注目し、その崩壊率に対する輻射補正の影響を現状の加速器実験や暗黒物質直接探索実験の制限を全て考慮して系統的に調べた。その結果、付加的な重いヒッグスボソンのループ効果が重大になる理論のパラメータ領域があることを明らかにした。このパラメータ領域では量子補正の効果が現状のLHC実験の125GeVヒッグスボソンのインビジブル崩壊の測定精度に匹敵する。また、輻射補正の理論計算の繰り込みスキームの違いが理論予言に与える影響についても解析を行い、注目している暗黒物質への崩壊分岐比が小さいような場合は、特にスキームの違いが大きくなることがわかった。 N2HDMに加えて、代表的な拡張ヒッグス模型の一つであるTwo Higgs doublet model(2HDM)で予言される荷電ヒッグス粒子の崩壊分岐比の精密理論計算を行った。このような解析は、将来的に荷電ヒッグス粒子が発見された際に、あらゆる荷電ヒッグス粒子を予言する理論から真のヒッグスセクターの形を絞り込むのに役立つ。この研究により荷電ヒッグス粒子がZボソンと付加的なCP-oddヒッグス粒子に崩壊する過程では、その量子補正が摂動の0次の理論予言よりも大きくなり得るほどのインパクトを持つことを明らかにした。また、荷電ヒッグス粒子の崩壊パターンを調べることで、2HDMの湯川相互作用の構造を同定できる可能性があることを指摘した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目標は、拡張ヒッグスセクターをもつ模型における軽いスカラー新粒子を予言するシナリオを包括的に扱い、各シナリオの検証可能性を調べることでヒッグスセクターの構造を解明し、さらに軽い新粒子の性質を明らかにすることである。 軽いスカラー新粒子が暗黒物質である場合と標準理論粒子に崩壊するCP-oddの粒子である場合を包括的に調査することが研究計画に含まれているが、本年度の研究により軽いスカラー新粒子が暗黒物質であるようなシナリオに対するヒッグスボソンの新粒子崩壊の精密理論計算を既に終えており、本研究はおおむね順調に進展していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度の研究では、軽いスカラー新粒子が数十GeVのスケールに存在するような拡張ヒッグス模型を調査した。今後は、軽い新粒子がMeVやkeVなどより低いスケールにあるようなシナリオに注目し、そのような軽い新粒子を予言する拡張ヒッグス模型を構築する。そして、予言される軽い新粒子の性質やその検証可能性を精査する。とりわけ、125GeVヒッグスボソンが軽いCP-oddの新粒子に崩壊する過程に注目し、その量子補正のインパクトを明らかにする。軽い新粒子のみならず、理論に含まれる重い付加的ヒッグスボソンを通じて、拡張ヒッグス模型の軽い新粒子を含むシナリオを検証できるかどうかも調べる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの拡散防止の観点からあらゆる国際会議や国内研究会がオンラインにより実施された為、旅費の計上額が減った。次年度では研究計画を効率的に進めるために物品費の計上額を増やす。また適宜、現地で開催される国際会議や研究会に参加していく。
|