微弱な結合がその質量の軽さに由来する軽いスカラー暗黒物質を予言する拡張ヒッグス模型を新たに構築した。この模型の軽いスカラー暗黒物質の特徴は、ヒッグス粒子と付加的ヒッグス粒子と強結合を持ち得るという点である。この強結合を通じた二つのヒッグス粒子崩壊からの軽い暗黒物質生成過程を解析し、付加的ヒッグス粒子の軽いスカラー暗黒物質崩壊により、多くのパラメータ領域が将来加速器実験で探索可能であることを示した。また、2022年CDF II実験で報告されたWボソン質量の標準理論予言からのずれを、最大で5MeV程度緩和することを示した。 その他にも、光子との結合が抑制される機構を持つ軽いスカラー暗黒物質を予言する拡張ヒッグス模型の現象論を調べた。その結果、この軽いスカラー暗黒物質が将来の暗黒物質の直接探索実験やX線探索等で発見された場合、付加的ヒッグス粒子の質量の上限が与えられることを明示した。この研究は、軽いスカラー暗黒物質と付加的ヒッグスの関連性を明らかにするという意義を持つ。 また、ヒッグス二重項場を二つ以上含む模型で予言される付加的なCP-odd ヒッグスの崩壊率に対する量子補正の理論的性質を調査した。とりわけヒッグス結合のずれが小さいシナリオにおいて、CP-odd ヒッグスの崩壊率に対する量子効果が重大になることがわかった。この結果は、LHC実験の付加的ヒッグス粒子直接探索における量補正の重要性を指摘している。 研究期間全体の研究を通じて、軽いスカラー暗黒物質を探索する上で付加的ヒッグスの影響は、質量スペクラムによらず重要であることを明らかにした。(軽い場合は付加的ヒッグス粒子崩壊が、重い場合は量子補正を通じて125GeVヒッグス崩壊に影響する。)また、軽いスカラー暗黒物質が実際に発見されれば、付加的ヒッグス粒子との関連性によりヒッグスセクターの構造解明に迫れることを明らかにした。
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