暗黒物質は、様々な宇宙観測によって存在が確かであると考えられていながら、その性質はほとんど解明されていない。暗黒物質が素粒子であるならば、様々な実験事実を説明し確立した模型である素粒子標準模型中には存在しない粒子であり、その拡張が必要となる。現在、理論・実験の両面から暗黒物質の性質の解明、探索が行われており、近年GeV以下の軽い質量を持つ暗黒物質が注目を集めている。宇宙から飛来する軽い暗黒物質はその軽さゆえに核子を反跳させるエネルギーを持たず、直接検出実験の強い制限を回避することが可能である。一方でビームダンプ実験といった長寿命粒子探索実験では高エネルギーの暗黒物質が生成されるため、核子との反跳とその検出も可能となる。 本年度では,日本で計画されている電子・陽電子線形加速器であるInternational Linear Collider(ILC)のビームと,そのビームを廃棄するためのビームダンプを用いた長寿命粒子探索実験であるILCビームダンプ実験による軽い暗黒物質探索を議論した.一例としてダークフォトンを媒介粒子とする暗黒物質模型を考え,ビームダンプおよびシールドの背後にある崩壊領域にて重い暗黒粒子が軽い暗黒粒子と荷電粒子に崩壊するイベント,および崩壊領域の背後に設置された検出器内で電子と弾性散乱するイベントを評価した.その結果,長寿命粒子探索実験であるILCビームダンプ実験が上記暗黒物質の探索に対して感度を持つことを明らかにした.
|