研究課題/領域番号 |
21K20375
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
伊地知 敬 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (30906128)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2024-03-31
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キーワード | 南極底層水 / 二重拡散対流 / 貫入現象 |
研究実績の概要 |
南極海では、近年の地球温暖化の影響が顕在化している。それに伴って、深層海洋大循環の大動脈である、南極大陸沿岸から世界大洋の底層に広がった南極底層水にも変化がもたらされつつある。しかしながら、南極沿岸で形成された底層水が外洋域へどのように広がっていくのか、未解明のまま残されている。本研究では、南極沿岸と外洋の移行域で観測される二重拡散対流を伴う貫入現象に着目し、それが底層水の遷移過程に果たす役割を明らかにすることを目指している。 本年度は、昨年度に引き続き、南極沖合深層の熱塩フロントで観測された貫入層の特性の既存理論との整合性を検証し、貫入層の形成メカニズムを解明する糸口を探った。これまで様々な海域で観測された貫入層の厚さは、無限に広い一様な熱塩フロントを仮定して得られるToole-Georgiスケールでよく説明されてきた。その一方で、本研究で対象としている南極沖合で観測された貫入層のO(100) mもの厚さは、Toole-Georgiスケールより1オーダー以上も厚く、むしろ室内実験で見られるような狭いフロントで特徴的なRuddick-Turnerスケールで非常によく説明されることが分かった。このことは当該海域で観測された貫入が、海洋中では報告例が数少ないフロント幅の有限性が重要な貫入であることを示唆している。しかしながら、既存理論ではフロント幅の有限性を考慮していても、水温・塩分の水平勾配が互いに打ち消し合って密度の水平勾配がない熱塩順圧フロントを仮定していて、観測で見られるようなフロントの傾圧性の影響を評価できていない。現在、既存の二重拡散対流に起因する貫入の線形理論を有限幅の傾圧フロントへ拡張することを試みている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究開始時の予定では、観測された貫入層やその背景場の特徴を把握した上で、貫入再現実験に着手することになっていた。その一方で、既存の貫入理論では観測された貫入層との整合性が十分に取れず、観測された貫入層を説明するために不可欠な要素を絞り込む必要が出てきた。そのため当初予定していた数値実験の着手に遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
まず、既存理論では同時に取り扱えていないフロント幅の有限性とフロントの傾圧性等を共に考慮した線形不安定性解析を数値的に行い、観測された貫入層を説明するために不可欠な要素を絞り込む。その後、それを踏まえた上で、貫入層が観測された顕著なフロント域を対象とした数値実験を行うことで、貫入現象を再現し、貫入による沿岸側の新しい底層水と外洋側の古い底層水との混合過程を詳しく調べていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定では、本研究課題の遂行に必要な大型計算機の使用料を本年度の予算に計上していたが、現在までの進捗状況で述べたとおり、数値実験の着手に遅れが生じ、大型計算機の使用料が発生しなかった。さらに、新型コロナウイルス感染症が想定ほど収束せず、本年度に予定していた国際学会への現地参加を見合わせたため、国外旅費が発生しなかった。これまでの未使用分は、翌年度の大型計算機の使用料・国内外の学会現地参加旅費・論文投稿費に予算を充てる予定である。
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