研究課題
本研究の目的は、地球上での大規模天体衝突イベントとしては最も新しい、およそ80万年前のオーストラリア-アジアテクタイトイベントのイジェクタ堆積物について、構成粒子組成・熱履歴・経験衝撃圧力の層序方向の変化と空間分布・異方性を調べ、その飛散・堆積過程を解明することである。2021年度は、これまでに東南アジアで試料を採取した地点のうちタイ東北部・ラオス南西部の4地点の礫層試料及びラオス南西部で採取した第四系玄武岩について、研磨片・薄片観察及びEPMA分析・XRF分析を行った。その結果、イジェクタ層中に著しく風化した玄武岩の破片が含まれていることが分かった。このことは、第四系玄武岩が分布するラオス南西部のBolaven Plateau地域が衝突地点であるとする先行研究の仮説を強く支持する結果である。イジェクタ層中には砂岩・泥岩片や石英岩の礫も含まれ、それらの量比は地点ごとに異なっており、イジェクタ層中の礫種組成・主要元素組成の地理分布を調べることで、礫の飛散過程に制約を与えることができると期待できる。また、タイ東北部の1地点のイジェクタ層試料について放射光XRD分析による石英の格子定数の測定を行った。一般に、衝撃変成によって石英の格子定数が増大することが知られている。放射光を用いることで格子定数の精密な測定が可能となり、5~30 GPaの広い圧力範囲で経験衝撃圧力の推定が可能となる。イジェクタ層試料中の石英の格子定数を衝撃回収実験試料の測定結果と比較した結果、未変成の試料よりも格子定数が増大していることが確認でき、5~10GPa程度の衝撃圧力を被っていると推定された。今後、測定層準・地点を増やし経験衝撃圧力の空間分布を明らかにする。
3: やや遅れている
2021年度は、タイ東北部及びラオス南西部で採取したイジェクタ試料について、研磨片・薄片観察及びEPMA分析・XRF分析を行った。また、タイ東北部で採取したイジェクタ試料について予察的な放射光XRD分析を行った。当初の計画では、上記の観察・分析に加えて、複数地点の試料に対して石英の電子スピン共鳴(ESR)信号強度測定と放射光XRD分析を進める予定だったが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響や放射光施設における実験装置のトラブルにより、他機関で実施する試料処理・分析を十分進めることができなかった。したがって、当初の研究計画からはやや遅れていると判断する。
2022年度は、これまでに東南アジアで採取したイジェクタ層試料について、(1) 研磨片・薄片観察、EPMA分析・XRF分析、(2) 石英のESR信号強度測定による熱履歴推定、(3) 放射光XRD分析による経験衝撃圧力推定を行うことで、構成粒子組成・熱履歴・経験衝撃圧力の層序方向の変化と空間分布・異方性を明らかにする。(1)に関しては、既に4地点で実施しており、さらに地点数を増やして同様の分析を行う。(2)(3)に関しては、できる限り代表者の所属機関実験室で試料の前処理を行えるよう、遠心分離機やウォーターバス等の設備を整え、推進する。これらの分析結果と、代表者がこれまで東南アジアで野外調査を行い記載してきたイジェクタ層の岩相層序・ユニットごとの層厚の側方変化を合わせ、堆積過程の考察を行う。
ESR分析装置への温度可変装置の取り付けを予定していたが、実験室レイアウトの調整が必要となったため2022年度へ繰り越し、試料前処理に必要な設備の整備とあわせて2022年度初頭に取り付けを行う。
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