研究課題/領域番号 |
21K20386
|
研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
岩橋 くるみ 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 研究員 (60909810)
|
研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2024-03-31
|
キーワード | マグマだまり / 噴火前駆過程 / マグマ混合 / 火山噴火 / 火山岩 |
研究実績の概要 |
本研究では、島弧火山の火山下にしばしば存在する結晶量が50 vol.%を超えるマグマだまりについて、その温度・化学組成条件と結晶量、そしてそれらの値が噴火直前の高温マグマの貫入によりどの程度変化するのかを解明することを目指している。研究対象は、昨年度に引き続き、雲仙火山の有史時代噴火の噴出物中の集斑晶である。集斑晶は、複数の結晶が集まって形成される結晶の集合体であり、結晶量の多いマグマだまりの一部であると考えられている。 本年度は、集斑晶中の鉱物・ガラスの化学組成分析と斑晶の化学組成分析による有史時代噴火の各噴火時のマグマだまりの温度化学組成条件の制約を、昨年度に引き続き実施した。加えて、集斑晶を高温マグマ貫入時のマグマだまりの温度圧力条件を再現した条件下にさらし、その組織・化学組成の変化を調べた。 その結果、前者の分析からは、有史時代噴火のうち、最近の二回の噴火について、マグマだまり内部に存在する温度化学組成不均質の履歴を発見した。そして、さらなる解析の結果、有史時代の各噴火におけるマグマだまり内部の部分的な温度化学組成不均質の有無や量の違いが噴出物の特徴の違いに現れている可能性を示唆する結果を得た。加えて、有史時代噴火が起こった期間である約200年間の間、マグマだまり中の多くの部分を占めるであろう、低温かつSiO2含有量の高いマグマの温度・化学組成は同様であったことも示すことができた。 一方で、後者の実験の結果からは、短時間の加熱時、集斑晶中の結晶量の変化は集斑晶全体の粘性を変えるほど大きくはならないことがわかった。また、集斑晶中のガラス部分の化学組成にも大きな変化は見られなかった。これらの特徴は、天然の噴出物中の、加熱を受けた痕跡を残す集斑晶の持つ特徴と類似している。本成果は、天然の試料からマグマだまりの加熱時間や加熱時の挙動を制約する上で有用な手がかりとなりうる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の成果として、雲仙火山有史時代噴火に対してマグマだまり内部の不均質な温度化学組成の記録を明らかにしたことと、そして有史時代を通じたマグマだまり内部の温度化学組成条件の変化を解明したことがある。上記の結果は、マグマ貫入前のマグマだまりの物性を考える上で重要な手がかりとなる。 さらに、集斑晶を使った実験からも、当初の目的通り、マグマだまりの物性変化を推定するために必要なマグマだまり加熱時の結晶量やガラスの化学組成も、本年度の成果によりおおよそ制約することができている。加えて、マグマだまりの加熱時間を推定するために有用な結果を得ることができた。従って、本研究の進捗状況はおおむね順調であると評価した。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた成果から、本加熱実験が天然の集斑晶に見られる加熱の痕跡を再現できうることが分かった。今後は、まず集斑晶の組織解析実験により、試料が確かに天然の集斑晶のうち、加熱を受けた痕跡を残すものの特徴を再現できていることを確認する。この後に、加熱実験試料の結果を使って、加熱の痕跡を残す天然の集斑晶がマグマだまり中で被った加熱時間を推定する。これをもとに、噴火前の高温のマグマの貫入によるマグマだまりの加熱時間と、その物性変化のモデルを構築する。また、必要に応じて追加の実験を実施する。 また、加熱実験後の集斑晶中の鉱物の化学組成の変化の有無やその程度を実験前の試料と比較することで、マグマだまり加熱時の鉱物の化学組成変化を明らかにし、高温マグマの貫入による短時間のマグマだまりの加熱が鉱物温度計・化学組成計での見積もり値に及ぼす影響を評価する。 成果は、学会等で発表を行う。加えて、これまでの天然の集斑晶について得られている成果も論文にまとめて発表することを目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、実験の試行回数が予定よりも少なかったことと、支出予定だった海外学会への支出がなくなったことにより、次年度使用額が生じた。次年度使用額は、成果発表のための学会参加及び論文の出版費用に使用する予定である。
|