島弧火山下には、高結晶量のマグマだまりがしばしば存在することが知られている。火山噴火の主なトリガーの一つは、この高結晶マグマだまりへの高温マグマの混合である。この時、この高結晶マグマだまり中のマグマの物性は、噴火の開始条件や噴火様式に影響をおよぼす。 したがって、この浅部マグマだまりがどのような物性(温度・化学組成・結晶量)を持ち、それが時間の経過とともにどの程度変化していくのかを知ることは非常に重要である。そこで、本研究では、火山下の高結晶マグマだまりの温度化学組成とその経時変化を明らかにすべく、主に天然の火山噴出物中の集斑晶の化学組成分析・組織解析を実施した。研究対象として、雲仙火山の有史時代噴火(1663年、1792年、1991-95年)の噴出物を選んだ。雲仙火山は、火山下に高結晶量のマグマだまりが存在すると考えられている。これらの噴出物中の集斑晶の解析により、各時代の高結晶マグマだまりの温度・化学組成を推定したところ、高結晶マグマだまり中には、温度化学組成不均質が存在していたことが明らかになった。さらに、本研究の結果から、この高温領域が噴火前のマグマ混合過程や噴火様式に影響を及ぼす可能性が示唆された。一方で、各噴火時のマグマだまりの温度化学組成条件の比較から、マグマだまり中で最も低温かつ高い結晶量を持つ領域の温度・メルトの化学組成は数百年スケールでほとんど変化しないことがわかった。 また、電子顕微鏡による斜長石中のストロンチウムの分析手法の開発と、同手法を使った集斑晶中の斜長石の微量元素組成分析を実施し、集斑晶が過去に経験した温度化学組成変化の履歴を推定した。
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