本研究は、マイクロウェル内に細胞懸濁液の液滴を形成し、その中で細胞へ電気穿孔法にて遺伝子導入を行うものである。この液滴形成では、受動バルブを利用した特殊な流路構造とすることで、液体を自律的に制御し,懸濁液およびそれを単離するためのオイルを流路へ順次送液するだけで簡便に液滴を形成できることが特徴である。 令和4年度は,単一細胞の選別と、遺伝子導入プロセスに必要となる、細胞染色による評価手法および細胞培養の検討を行った。 前年度の検討より、細胞塊に対しては効果的に電気刺激を印加できないことがわかったため、決定論的横置換(DLD)法を用いて、細胞塊と単一細胞の選別に取り組んだ。この結果、採取した細胞のうち97%が単一細胞となるよう、細胞塊を除去可能であることを実証した。 遺伝子導入では、その成否や細胞の生死を判別する必要があり、その方法として試薬を用いて細胞を染色する方法が一般的である。また、従来のマイクロ流体デバイスを用いた電気穿孔では、デバイス内で電気刺激を印加後、デバイス内から処理した細胞を採取し、ディッシュなどに移し替えして培養することが一般的で、細胞が最も弱っているときにさらにストレスが加わっている懸念がある。そこで、本研究では、電気刺激の印加から、細胞培養および染色による評価の一連のプロセスをデバイス内で連続的に実行可能であるかを検証した。その結果、電気刺激印加後の細胞に対する生死判別を実行可能であることを確認した。また、デバイスに培養液を入れたピペットチップを挿入し、重力によって培養液を常時かん流することで、3日間細胞培養を可能であることを確認した。
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