研究課題/領域番号 |
21K20400
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大和 駿太郎 京都大学, 工学研究科, 特定助教 (00908486)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | データ同化 / 粒子フィルタ / クランプ / 薄肉工作物 / 機上計測 / FEM |
研究実績の概要 |
本研究では,工作機械に取り付けられた実稼働中のセンサ観測データの逆解析によって,境界条件を推定する新たな手法を開発し,従来不可能であった要素境界条件の実稼働状態に基づく自動キャリブレーションを実現するとともに,推定値の変動挙動や確率的な不確かさ(ばらつき)から機械状態監視に繋がる知見の発見を目論んでいる. 本年度は,具体的なアプリケーションの1つとして,薄肉円筒工作物のクランプ/サポート部に着目した.加工の際に工作物がクランプによって固定されるが,特に薄肉工作物では,クランプ部での締付状態によって工作部の動特性が大きな変化する.薄肉工作物は不安定加工を誘発しやすいため,仮想空間上でクランプされた際の工作物全体の振動挙動を正確に捉え,加工工程設計に生かすことが望まれている.そこで,工作物の有限要素法(FEM)モデル上で接触剛性・減衰として表現したクランプ部の境界条件を推定するシステムを構築した.具体的には,境界条件推定にはデータ同化手法の1つである粒子フィルタを応用し,機上加振計測によって抽出可能な限られた工作物振動情報とシミュレーションデータの相関に基づき,確率的に尤もらしいFEMモデルの境界条件に自動更新するアルゴリズム・解析フレームワークを構築した.構築したシステムは任意のクランプ位置・個数に対応可能である. 実験検証の結果,限られた観測点における振動データに基づきクランプ部の境界条件が更新され,更新されたFEMモデルによるモード形状などは現実の振動特性を正確に表現できていることが確認できた.また,複数のクランプ箇所がある場合の各境界条件の推定値挙動から,クランプ締付の不均一性や締付不良を検知できる可能性があることが分かった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
最終的には,いくつもの要素部品が組み合わさった複雑な工作機械構造を対象に,切削加工や機上加振時の振動情報などを利用した要素部品間の境界条件推定によって,工作機械デジタルモデルの自動キャリブレーションを実現することが目標である. 令和3年度は,第1ステップとして,より単純な問題設定である工作物クランプ部の境界条件に着目し,FEMモデルの振動データ同化システムの構築を行った.これにより,提案するシステムの妥当性・有効性に関する基礎検証を実施した. 上記の基礎検証を通して得られた知見・結果をベースに,構築した振動データ同化フレームワークを,いくつもの要素部品から構成される複雑な工作機械構造のFEMモデルに適用できる形に拡張を進めている. しかし,FEMモデルのデータ同化システムの構築を実現する際に,FEM解析ソフトウェアとの連携インターフェースの実装や,計算を高速化するための工夫の部分で予想より時間がかかってしまい,当初の計画より進捗にわずかに遅れが生じている.
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度に実施した工作物クランプ部の境界条件推定の結果から,クランプ締付の不均一性や締付不良の検知できる新たな可能性を発見したため,令和4年度においても本アプリケーションにおけるデータの取得・解析を引き続き進め,考察を深化させる. 並行して,振動データ同化による工作機械デジタルモデルの自動キャリブレーション技術の開発も当初の予定に沿うように進める.シミュレーション上の双子実験を通して振動センサの配置を最適化した後,加工時の力と振動データを利用して動特性に影響を及ぼす工作機械構造部品間の境界条件推定を試みる.加振(加工)条件を変えながら逐次推定することで,加振力やステージ位置に応じた推定値の変動挙動も調査する. また令和4年度では,得られた成果に関して論文投稿や学会発表などの対外発信も積極的に進める.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初導入を予定していたデジタルツイン開発環境のプラットフォームではなく,開発した解析アルゴリズムとの連動がより容易かつ安価であった別のCAEソフトを購入したため,次年度への繰り越し使用額が生じた.また昨今の半導体供給不足によって産業用電気・制御機器や部品が長納期で手に入らなかったことも影響している. 令和4年度では,準備・検討を進めてきた小型加工機(テストスタンド)の構築用部品・機器や加速度計.データロガー等のセンサ機器の購入,学会の参加費・旅費,論文投稿料等に使用する翌年度請求分と合わせて使用する予定である.
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