最終年度である2022年度では,単純な構造モデルを模擬したテストベンチを作成し,各部品間の接触剛性や接触減衰などの境界条件の推定を試みた.得られた結果を以下にまとめる. (1)小さい計算負荷で正確に機械構造の力学を再現しつつ,境界条件を逐次更新しながら構造振動の時間領域シミュレーションを実行可能なマルチ低次元弾性ボディに基づく時間領域シミュレータを開発した.これにより,計算コストが低減され,粒子フィルタにおける粒子数を増やすことで効果的なデータ同化を実現した. (2)構造体の任意の点に設置された限られた加速度センサの時間応答と,開発した構造振動の時間領域シミュレーションを,粒子フィルタを用いてデータ同化させることで,観測した振動データに基づき境界パラメータの確率分布を逐次的に更新するデジタルツインシステムを提案した. (3)機械の使用状況に応じた様々な観測データ(例えば異なる加振周波数を含む振動データ)に対して,確率分布を引き継ぎながらデータ同化を行うことで,それらを説明し得る妥当な境界条件を推定できることを明らかにした. (4)推定された境界パラメータの事後確率分布の挙動から,その稼働状態における重要な境界条件やシミュレータの信頼性を評価できる可能性を示した. 本研究を通して,収集した実稼働データの逆解析に基づき境界条件の自動推定・キャリブレーションを実現するための基盤技術が構築できたといえる.これは,機械の使用状態に応じて適応・成長する真のデジタルツインを実現するうえで重要な技術と考える.提案するフレームワークは機械構造の境界条件だけでなく,工作物におけるクランプ部の境界条件の推定や,境界パラメータの事後確率分布挙動を通した機械状態やクランプ状態の異常監視などにも応用できると考えられ,今後更なる発展が期待できる.
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