研究課題/領域番号 |
21K20401
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
黄 錫永 京都大学, 工学研究科, 特定助教 (90910927)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | 高Mn鋼 / セレーション挙動 / Portevin-le Chatelier効果 / 動的ひずみ時効 / 加工硬化率 |
研究実績の概要 |
一般的な炭素鋼を用いて300℃付近で引張試験を行うと、応力-ひずみ曲線上にはセレーションと知られている鋸歯状の応力変動が現れるとともに、材料の延性と靭性が低下し脆くなる、いわゆる「清熱脆性」が起こる。これは、動的ひずみ時効(DSA:Dynamic Strain Aging)またはPortevin-le Chatelier(PLC)効果と呼ばれる結晶中の可動転位と炭素などの溶質原子の相互作用によるものとされている。従来の合金設計では避けるべきだったセレーションであるが、高Mn鋼や変態誘起塑性鋼などの高い加工硬化率を有する金属材料にセレーションが現れるように変形条件を調節すると、さらに強度と延性が上昇することが報告されている。ここで、本研究の核心をなす「動機」が生じた。セレーションと加工硬化との関係性は何なのか、またセレーションが生じる原因は何なのか、ということである。本研究では、引張変形中PLCバンドとして特徴付けられるマクロ不均一変形帯の力学特性への役割を明らかにした上で、可動転位と溶質原子の相互作用というミクロスケールの解析を行い、セレーションの本質をあらゆるスケールで解明する。 本研究では、引張変形中PLCバンドとして特徴付けられるマクロ不均一変形帯の力学特性への役割を明らかにした上で、可動転位と溶質原子の相互作用というミクロスケールの解析を行い、セレーションの本質をあらゆるスケールで解明する。転位論によると、塑性ひずみの増加は転位が動いた距離で律速されるため、PLCバンドの内外の転位速度(転位の運動距離の時間微分値)が比較できる。転位速度が遅い場合、可動転位が炭素に固着されることを意味し、逆に転位速度が速い場合は、炭素の固着から転位が離脱することを示すことから、PLCバンドの位置を考慮した局所的なPLC効果(またはDSA効果)の解析ができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
放射光X線回折を高Mn鋼の引張変形中にリアルタイムで適用することにより、試験片中のPLCバンディングが応力‐ひずみ曲線上のセレーションと完全に対応することを世界で最初に解明し、国際学術誌「Acta Materialia」に記載した。また、DIC法による局所塑性ひずみ解析と放射光X線回折による転位密度評価を同時に引張変形中の高Mn鋼に適用することにより、PLCバンド内外の転位の平均速度を算出した。それらを炭素の拡散速度と比較することで、マクロなPLCバンドとミクロなPLC効果を結びつけることができた。現在、その研究成果は国際学術誌に投稿準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
今年からは、アメリカのバージニア工科大学との共同研究(引張試験中その場透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)観察)を通じて、PLCバンディングとPLC効果を実験的に証明する予定である。それらの結果をマクロなPLCバンディングと関連付けて理解することにより、セレーションの発現機構および加工硬化挙動の解明ができると期待している。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で、開催の予定だった国際学会が延期になり、またバージニア工科大学への実験出張が出来なくなったため、年内に予定額を使い切ることが出来ませんでした。しかし、現在までの研究成果を国際学術誌へ投稿(2編以上)し、これからの研究に必要な金属材料を購入する予定です。前年度余った分と今年度獲得する研究費を合わせたものを、そのための費用とします。
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