極めて高い除熱性能を示す相変化伝熱であるが、光学顕微鏡の分解能限界が足枷となりその沸騰開始機構が十分に解明されていないことが工業製品への適用を妨げている。本研究では、原子間力顕微鏡を用いた加熱中の固液界面ナノ計測を実現することで、発泡の最初期過程の解明につながる知見の獲得を目指した。 初年度および最終年度の前半は、熱対流を防ぐ「液膜セル」とセルとAFM探針の干渉を防ぐ「延伸探針」の作製を試みた。タングステンワイヤを用いることで既存の探針(高さ10μm)を50倍以上(約500μm)延伸した探針の作製に成功し、基板表面のAFM観察も問題なくできることを確認している。一方、液膜セルは実用化に至らなかった。具体的には、厚み約200nmの窒化シリコン膜に収束イオンビームによって50μm四方の穴を空けようとすると、電子線強度や熱アニール処理など実験条件を模索しても、シリコン膜内の残留応力によって割れてほしくない部分まで窓が割れてしまうことがわかった。また、基板表面に濡れ広がることで液膜セルの穴の中に水が保持されると想定していたが、実際は親水性の基板のみに限定され、かつ蒸発に対して水の供給が釣り合わず乾きあがってしまうことがわかった。 そのため、最終年度後半では異なるアプローチで研究を行った。具体的には、グリセロールでできた直径1μm以下のナノ液滴を3種類の基板表面上に凝縮生成させ、それらを加熱蒸発させることで形状変化をAFM計測した。その結果、算術平均粗さが0.222nmと極めて小さい表面であっても、ナノスケールの流体に対しては強力な接触線ピニングサイトとして働くことがわかった。これは沸騰核になると予想されるナノサイズキャビティが安定して存在できる可能性を示唆しており、発泡初期過程の理解につながる重要な知見である。
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