研究課題/領域番号 |
21K20415
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
戸部 友輔 早稲田大学, 理工学術院, 助手 (00907082)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | バイオリアクター / 血管床 / 組織工学 / 血管新生 / 細胞シート / 3次元組織 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、細胞密度が極めて高い立体組織に対して実際に培養液が灌流可能な機能的血管網を生体外で付与する技術を開発し、これまでにないミリメートルオーダーの厚みを持つ立体組織を構築することである。細胞から組織や臓器を作製する組織工学研究は,臓器移植に代わる移植治療や創薬等への応用が期待されている。しかし、生体外において生存可能な組織厚は培養液の拡散に依存するため数百μmに留まるという課題がある。本課題解決には培養液等が灌流可能な血管網を導入することが有効であると考えられているが、心筋組織などを始めとした高細胞密度組織内への血管網の導入,および血管を介した培養液の供給を生体外で同時に達成する技術は未確立であった。 そこで令和3年度は当初の研究実施計画に基づき、細胞密度が極めて高い立体組織に対して実際に培養液が灌流可能な機能的血管網を生体外で付与するため、細胞シートで構築する立体組織に培養液の流れ負荷を直接与える灌流培養技術の開発を行った。その結果、3Dプリンターを用いて作製した流路の鋳型をハイドロゲル表面に転写し、その直上に多層化細胞シートを生着させる手法の考案により、立体組織直下に任意の流路を実現可能であることを明らかにした。また、細胞によって収縮、分解されにくいハイドロゲル組成の検討により、作製した流路への培養液の持続的な灌流が可能となり、立体組織に直接流れ負荷を与えることが可能な新規血管床の構築に成功した。さらに、開発した血管床上での細胞シートの灌流培養は、培養液や血液の灌流が可能な機能的血管網を生体外において大量に付与する手法として有効であることを明らかにした。 本実験系は、細胞密度が極めて高い多層化細胞シート内への大量の血管網付与を生体外で実現できており、創薬試験モデルなどへの応用が可能な機能的な立体組織の構築手法としての応用が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度の達成目標は、細胞密度が極めて高い立体組織に対して実際に培養液が灌流可能な機能的血管網を生体外で付与する技術を開発することである。細胞のみで構成された細胞シートの灌流培養の土台となる血管床の流路構造に着目し、立体組織の直下に培養液を灌流可能な流路を有する新規人工血管床の考案、および作製手法の検討を実施した。人工血管床を構成する材料は、高い細胞接着性、かつ任意の形状を容易に作製可能であることからハイドロゲルを選択した。3Dプリンターを用いて作製した流路の鋳型を転写したハイドロゲル表面を立体組織で被覆することで、立体組織直下に任意の流路を形成可能な技術を確立した。続いて、ハイドロゲルへの細胞シートの生着後、作製した流路構造を維持可能なハイドロゲル組成を検討した。その結果、フィブリンゲルに第XIII因子を加えることで、細胞によって収縮、分解されることなく、立体組織の直下に培養液を灌流可能な流路を有する人工血管床の安定的な作製が可能となることを見出した。さらに、開発した血管床上で5日間灌流培養を行うことで、培養液や血液の灌流が可能な機能的血管網が大量に付与されることを明らかにした。以上により、細胞密度が極めて高い立体組織内に栄養供給を担う血管網を大量に導入可能な技術を確立することができた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は以下の2つに着手する。 1. 血管網付与に寄与する要因の検討 本年度の研究により、立体組織直下に培養液を灌流することで、立体組織内への血管網付与を再現性高く実現可能であることを明らかにした。そこで、培養液の灌流量などの灌流条件や流路形状が血管付与に与える影響を検討することで、高細胞密度組織内への血管付与に寄与する生体力学的要因の解明を試みる。 2. 1 mmを超える立体組織の構築 開発した血管床を用いた灌流培養技術により、血管内皮網付細胞シート3層(90 μm)を1組とした段階的積層を実施することで、従来困難であった約 1 mmの立体組織の生体外での構築に試みる. 以上により,大量の機能的血管網の付与,およびこれまでにない厚みを有する機能的な立体組織構築技術としての本手法の有効性を評価し、新たな再生医療組織や創薬試験モデルの応用研究に資する知見の獲得を目指す。
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