本研究課題において、(a)磁石保護技術、(b)永久電流運転技術、(c)冷凍機冷却技術を全て満たした理想的な高温超伝導磁石の開発を目指している。本年度は、技術開発が必要な課題の抽出を目的として、小型900 MHz (21 T 級) NMR 用永久電流・ヘリウムフリー高温超伝導磁石の設計・保護挙動の解析、また、(c)冷凍機冷却の要素技術開発を目指した基礎検討・試験準備を実施した。 電磁界解析によって磁石幾何形状を検討した結果、磁石の小型化のために、「インナーノッチ構造を採用した新しい巻線構造の実証」、「磁石軸方向の電磁力の定量化・補強法の考案」が必要だと見出した。また、クエンチ挙動を数値解析した結果、研究遂行者らが提案した巻線方式である層内無絶縁(LNI)法を用いて磁石を保護するためには、巻線内部の電気的接触抵抗率ρctを100 mΩcm2程度に制御することが必要だと定量的に明らかにした。この値を実証するため、昨年度基礎検討した導電性エポキシを用いたρct制御技術を用いて、実際にLNI高温超伝導磁石を製作した。しかし、試験結果から推定されたρctは~4 mΩcm2と、基礎検討により得られた~100 mΩcm2より約2桁小さい値となった。コイル形状でρctを制御するためには、条件の再検討・最適化が必要だといえる。 LNI法に対して(c)冷凍機冷却を適用した際の冷特性について数値解析を用いて調査した。LNI高温超伝導磁石は、巻線内部に熱伝導が良い銅シートを有しているため、従来の高温超伝導磁石よりも冷却特性が向上する。磁石内部のある単一の層に対して熱伝導解析を実施したところ、室温から4 Kまで冷却するのに、従来の高温超伝導磁石では約8.5時間の冷却時間を要したのに対し、LNI高温超伝導磁石では約2時間に短縮されることが明らかになった。LNI法は冷凍機冷却に対して好適だといえる。
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