研究課題/領域番号 |
21K20424
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
伏見 幹史 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任助教 (50907938)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | MRI / 導電率 / 誘電率 / 逆問題 |
研究実績の概要 |
本研究は、病変部位の診断や生体加熱の評価に有用な、生体組織の電気特性(導電率・誘電率)分布をMRI測定を元にマッピングするものである.2021年度は、現在の研究環境で利用可能な小動物用7T MRI装置に対して、電気特性再構成に必要な生体内の磁場分布を取得するシーケンスを実装し、これまでの研究で構築した再構成の数理手法を検証した。 MRIで計測された人体内部の複素磁場分布から導電率・誘電率を再構成するモダリティはElectrical Properties Tomography (EPT)と呼ばれる。EPTでは通常とは異なる特殊な撮像シーケンスを用いることでMRIで直接測定可能な、生体内部の磁場分布データを出発点として,Maxwell方程式を支配方程式とする逆問題を解くことで電気特性を再構成する。これまでの研究で構築した逆問題の数理解法を、新たに小動物用7T MRI装置による磁場測定データに適用し、これまでの3T MRIの場合との推定精度の違いや誤差の傾向について調べた。検証のために、導電率と誘電率の両方を独立に所望の値にした生体ファントムを作成した。あらかじめネットワークアナライザでMRI周波数における導電率・誘電率の値を測定し、MRI測定データからの再構成結果と比較した。 既存研究で指摘されているように、より高周波の磁場を印加する7T MRIでは誘電体効果の顕在化により送受信磁場が一致するという近似に対する誤差が大きくなることが判明したが、7T MRIでも提案する再構成手法が有効であることが確認された。以上の結果は国際会議(BioEM2022)での発表に採択済みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、MRI測定に基づく生体の電磁気特性の画像化モダリティについて、これまでの研究で構築した再構成の数理手法に対し、特にMRI測定部分を研究対象とするものであり、したがって実際に利用可能なMRI装置での実装が重要である。そこで初年度は,所属研究室で所有する小動物用7T MRI装置への撮像シーケンスの実装と、所望の導電率・誘電率を持つファントムの作成に取り組んだ。これまでの研究では3T MRI装置でのみ再構成手法の有効性が確認されていたが、今回7T MRI装置での有効性も検証できたため,再構成手法の適用範囲が拡大されたと考えられる。特に近年ではMRI装置の高磁場化が進んでおり、7T MRI装置への適用は将来的な臨床応用を見据えても重要である。一方で、7T装置の場合特有のアーチファクトについても整理することができ、来年度における新規撮像シーケンスの実装、および新規コイルの開発に向けた基盤となる取り組みとなった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の結果を受けて,来年度は以下の点に取り組む。 (1) 電気特性再構成の高速化のための磁場撮像シーケンスの開発:現在のEPTのための磁場計測手法は、既存の撮像シーケンスを流用したものになっている。これに対し、EPT専用の撮像シーケンスを構築することでシーケンスの最適化を行う。その際、はじめに動物実験により要求されるSNRと撮像時間の仕様を策定し、それに合わせて各種パラメータを最適化する。 (2) 電気特性再構成の高精度化のための局所受信コイルの開発:目的とする領域のみに局所的に感度を持った受信コイルを用いることで計測のSN 比を向上させることはMRIの分野で一般的に行われているが、EPTにおいては磁場分布に応じて再構成部分の逆問題の不安定性が変化するという特徴がある。したがって、逆に不安定性が生じる位置をコントロールするように受信コイルを設計し、再構成の安定化を測る。 (3) 導電率・誘電率・磁化率の同時再構成のための撮像シーケンスの開発:磁化率と導電率両方の情報を含んだグラディエントエコー(GRE)撮像を用い、再構成の段階で両者を信号処理で分離することで単一撮像から両方の物性値分布を再構成する。GRE信号方程式モデルの非線形性を正しく考慮した最尤推定アルゴリズムを構築するとともに、さらに誘電率の情報を信号に含めるため、誘電率再構成時に利用されている撮像シーケンスで行われている追加の磁場励起行程をシーケンスに取り込む。新たにシーケンス要素を取り込むことで既存のシーケンスに影響が出るかを評価し、フォードバックしながら全体として適切に動作するシーケンスへと調整していく。
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