研究課題/領域番号 |
21K20431
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
黄 善彬 九州大学, 稲盛フロンティア研究センター, 学術研究員 (30907019)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | Organic Semiconductor / Photovoltaic device / Indoor light / Exciton Fission / Internet of Things / Sensor Networks |
研究実績の概要 |
モノのインターネットの急速な発展と共に身の回りの屋内環境において無電力ネットワークの構築需要が高まっている。人工屋内光源を使用する屋内型有機光電変換素子は屋外型よりも高い光電変換効率を持つと実験的に知られているため各種低消費電力電子機器の電源として魅力的な素子である。しかし、屋外型と比較して素子評価法が確立されてないことと光電変換効率が高い理由について根本的に分析されていない。本研究では低い照度の屋内光源下(1000 lx: 商店や手術室、500 lx:オフィスや教室、200 lx:居間)で屋内型有機光電変換素子の光電変換効率が屋外型より高い原因を励起子相互作用による分裂や対消滅にあると見込み、素子特性評価法の確立と共に入射光源の波長及び強度依存性を調査・分析しようとした。 今年度においては、疑似太陽光・屋内光を用いて光電変換素子の定量的な測定・評価できるシステムを構築すると共に分光放射照度に対する量子収率の変化を調べるために必要な単色光レーザーパルス変調システムを構築した。構築した測定システムを用いて屋内型有機光電変換素子の入射光源のスペクトル及び放射照度依存性の調査と励起子濃度の光入射時間及び強度制御による光学的・電気的挙動分析を行った。これらの分析結果を元に低照度における励起子分裂と励起子対消滅抑制が有機光電変換素子の屋内光照射において高い光電変換効率の達成に繋がることを実験的に見出した。さらに有機光電変換素子内部の励起子相互作用を制御することで居間の低照度(200 lx)において21.1 %の高い光電変換効率を有する素子作成に成功した。今後得られた結果を元に論文化作業に取り掛かり、励起子挙動を制御した汎用性の高い屋内型有機光電変換素子の光電変換効率向上戦略を構築とさらなる発展と実用化に繋げることを目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で用いたフラーレン誘導体をアクセプターとして用いた有機光電変換素子は、高照度の屋外光より低照度の屋内光を照射した方が高い光電変換効率が得られる。この現象は身の回りで一般的に使われているSi系光電変換素子では観察できない独特な現象であり、様々な屋内環境の光照度要件を考慮すると屋外光より低い光照度下における屋内型有機光電変換素子の変換効率の向上は望ましい結果であるが、その根本的な原因は明らかではない。 今年度の研究ではこれらの原因を解明するため疑似太陽光・屋内光を用いて光電変換素子の定量的な測定・評価できるシステムを構築し、さらに分光放射照度に対する量子収率の変化を調べるために必要な単色光レーザーパルス変調システムを構築した。これらの測定システムを用いて1. 屋内型有機光電変換素子の入射光源のスペクトル及び放射照度依存性を参照Si光電変換素子と比較しての調査した結果、入射光の放射照度が下がると共に変換効率が上昇する結果が得られた。続いて2. 屋内型有機光電変換素子に単色光レーザーパルス変調システムを用いて入射光源の波長・強度・照射パルス時間変調(励起子濃度の制御)に対する電気的挙動解析を行った結果、低い入射照度(低励起子濃度)において分光量子収率が上昇傾向を示し、高いエネルギーを持つ短波長光において理論値100 %を超える分光量子収率が得られた。これらの結果は、低照度において理論値を超える高い分光量子収率(励起子分裂)およびその上昇傾向(励起子対消滅の抑制)は高い光電流を素子へ齎し、屋外光より低照度の屋内光源下でより高い光電変換効率が得られることを示唆している。そして有機光電変換素子内部のこれらの励起子相互作用を制御することで居間の低照度(200 lx)において21.1 %の高い光電変換効率を有する素子作成に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
光電変換素子の光電変換効率および量子収率は入射光の波長毎に異なるが、外部温度や素子を構成するダイオード因子、内部抵抗から起因するバランス崩れがない場合、入射光の強度に依存せずほぼ一定である。しかし、相対的に高いエネルギーを持つ青・緑色の入射で形成されるp-nの界面の一重項励起子(S)のエネルギーが三重項励起子(T)より二倍以上高い場合(S>2T)、励起子分裂が起きる条件を満たすと赤色の光では観測できない100%を超える量子収率(最大200%)が観察される。そして高強度光照射においては、励起子分裂で通常より2倍増えた励起子濃度は三重項励起子対消滅が起こりやすくなり再結合損失による光電変換効率の低下に繋がる。本研究では屋内型有機光電変換素子の低光照度下における光電変換効率の向上が励起子相互作用による分裂や対消滅抑制から起因していることを素子の光学特性・電気的特性を分析することで実験的に見出した。 今後は、これらのメカニズムをより明確に立証するために現在用いている有機半導体材料の一重項および三重項励起子のエネルギー準位の測定や各励起子の寿命測定に取り掛かる。そして励起子の挙動を制御した汎用性の高い屋内型有機光電変換素子の変換効率向上戦略を構築し、研究終了期限に向けて成果の論文化を目指す。
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