研究課題
本研究では、電気推進航空機の実現に向け、落雷事故時の過電圧等を考慮した安全な全超伝導同期機の設計について研究開発を行っている。超伝導巻線の昇温は重大な事故を起こしうるため、液体水素等に比べて比熱が大きく昇温リスクが低い液体窒素を用いた冷却を想定する。そのような全超伝導同期機について、二次元有限要素法を用いた電磁界・熱連成解析による巻線構造の設計指針の決定を目的とする。それに向け、1.磁界中の超伝導線材の交流損失特性の測定実験の実施、2.交流損失による温度変化を考慮した解析手法の確立、3.その手法による冷却に最適な巻線構造の検討、4.同手法による電圧波形等の電磁気的特性で有利な巻線構造の検討が本研究の実施予定事項である。2021年度では1および2を実施予定であった。具体的な研究実績を以下に示す。I.全超伝導同期発電機について、市販の解析ソフトウェアにおいて、交流損失とそれによる温度変化の相互作用を計算することができる解析方法を確立した。市販ソフトウェアでは交流損失を計算することができないため、下記のような計算機を製作し、ソフトウェアと連携させることで交流損失を考慮した温度変化の計算を可能にした。事前に、温度や磁界強度に対する交流損失特性を実験で取得しておき、電磁界解析で得られた磁界条件および熱解析で得られた温度条件を、取得した特性に適用することで交流損失を見積もる。ただし、ここでは交流磁界のみを印加した場合の実験結果を用いており、より正確な見積もりには、直流と交流の重畳磁界下での実験結果が必要である。II.短尺超伝導線材について、直流と交流の重畳磁界下における交流損失の磁界条件依存性データを取得した。この結果を用いることで、交流損失による温度上昇をより詳細に見積もり、巻線構造等の最適化の検討が可能になる。
3: やや遅れている
実施期間初期に実験器具が故障し、その修理および測定システムの校正に時間を要したために、当初予定していた、直流と交流の重畳磁界中での短尺超伝導線材サンプルの交流損失測定試験の実施を延期した。測定実験は2022年2月から開始しており、2022年度初期は引き続きこの測定実験を行う。温度や磁界について様々な条件での測定を行い、そのデータ整理を行う。上記実験を中止していた間、その次に実施を予定していた、交流損失を考慮した解析手法の検討に着手し、交流損失とそれによる温度変化の相互作用を計算可能な解析手法を想定通りに確立した。当初は、実験により交流損失特性を取得し、さらに解析手法の確立を達成した状態で2022年度を迎える予定であったが、上記の通り測定実験およびそのデータ整理が未達である。
引き続き交流損失測定実験を行う。得られた結果について、磁界条件(直流磁界強度および交流磁界強度)に対する交流損失特性を明らかにすることを目的とする。これにより、ある特定の条件で交流損失測定実験を実施すれば、他の条件での交流損失値の予測が可能となる。これ以降は、当初予定していた順序で研究を行う。得られた交流損失特性を、2021年度に確立した解析手法に適用することで、特に界磁巻線における交流損失による温度変化をより詳細に見積もることが可能になるため、冷却の観点から最適な巻線構造の検討を実施する予定である。その後、トルクや電圧波形等、電磁気的特性の観点から有利な巻線構造を検討する。
2021年度に実施予定だった測定実験が一部終わっていないため、それに使用する予定だった寒剤(液体窒素および液体ヘリウム)分の差分が生じている。次年度にその実験を行う。また、上記実験結果を元にした論文を学術論文誌へ投稿する予定だったが、投稿が遅れているため、論文の投稿・出版料で差分が生じている。次年度に実験が終わり次第執筆・投稿する予定である。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 6件)
IEEE Transactions on Applied Superconductivity
巻: 未定 ページ: 1~6
10.1109/TASC.2022.3160660
巻: 32 ページ: 1~6
10.1109/TASC.2022.3160146
巻: 32 ページ: 1~5
10.1109/TASC.2022.3154338