多層グラフェンは優れた機械的強度および電気的特性を有することから、フレキシブルデバイスをはじめとして、多様な応用先が期待されている材料である。本研究では、フレキシブルデバイスの実現に向けて、軽くて柔らかい次世代型二次電池「フレキシブル全固体薄膜電池」を提案するとともに、研究代表者の独自技術である多層グラフェンの層交換合成法をベースとし、ボトルネックとなる多層グラフェン合成技術の開発と負極特性の実証を目標として研究を遂行した。 層交換法は非晶質炭素層と金属層の位置が交換すると同時に多層グラフェンが合成されるユニークな手法であるが、非晶質炭素層の特性が合成される多層グラフェンに与える影響はこれまで明らかとなっていなかった。初年度の研究において、研究環境の立ち上げと層交換の再現性の確認する中で、層交換を発現する最低温度が非晶質炭素の特性に強く依存することを明らかにした。また、ラマン分光法を用いて多層グラフェンの結晶性の評価を行い、非晶質炭素の諸特性を制御することで多層グラフェンの結晶性を向上できることを見出した。また、これまで、絶縁基板上に層交換合成した多層グラフェンは基板に平行に(002)配向していたが、次年度の研究により、金属箔上に層交換合成した多層グラフェンが基板に垂直に(002)配向することが明らかとなった。加えて、Li箔と電解液を用いたリチウムイオン二次電池(コインセル)を作製し、垂直配向した多層グラフェンの負極特性を評価したところ、高温で合成されるバルクグラファイトに匹敵するクーロン効率と容量回復率を示した。
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