研究課題/領域番号 |
21K20440
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
峪 龍一 北海道大学, 工学研究院, 助教 (80908426)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | 冬季道路管理 / 道路ネットワークの不確実性 / 移動時間信頼性 / 確率的交通容量 / 交通データ観測 |
研究実績の概要 |
2021年度は冬季の札幌市内における動画観測によって得られた交通流データを用いて,道路の状態の違いが交通流の特性に及ぼす影響についての基礎的な分析を行った.具体的な内容として,(1)堆雪幅の違いが交通流の特性に与える影響の定量的な評価,(2)交通流データから道路状態を予測する手法の開発をそれぞれ行った.以下,具体的な内容を示す. (1)堆雪幅の違いが交通流の特性に与える影響を定量的に評価した.観測の結果より,堆雪幅が変化すると,交通流の基本図を規定するパラメータが変化することがわかっている.本研究では,この変化を定量化するため,階層ベイズモデルを適用し,各堆雪幅における自由走行速度および臨界密度を確率変数として推計した.交通データを観測した,札幌市内の道道では,潜在的な交通需要は小さく,交通容量は大きい.そのため,積雪のないときには,渋滞流は観測されない.しかし,積雪期において堆雪幅が大きくなると,走行空間が減少するため,渋滞流が次第に観測されるようになる.堆雪幅の大小によって,観測される交通流の種類が異なることが,交通流の基本図のパラメータ推計における課題であったが,階層ベイズモデルの適用により,これを克服できることを示した. (2)上記で得られた結果より,堆雪幅の違いは,自由流における走行速度の違いによって特徴づけられることがわかった.交通観測データから,自由流における走行速度を推定することができれば,逆に道路の状態(堆雪幅)を推定できるという着想を得た.異なる堆雪幅における,自由流における流率と密度の観測データが,異なる堆雪幅ごとの線形回帰モデルから生成されると仮定することにより,任意の流率と密度のデータの組が得られたときに,ある堆雪幅に分類される確率を推定する手法を開発した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(1)堆雪幅の違いが交通流の特性に与える影響を評価する手法の開発については,1件の国内会議において発表した.会議等における他の研究者との議論を通じて,本研究が分析の対象とするような,地方の積雪寒冷地における道路においては,本研究で提案する手法を用いることが有効であると意見をもらった.一方で,提案手法で推定されるパラメータのばらつきの解釈をめぐり,議論が続いている.取得した,堆雪幅ごとの交通流データのサンプル数のばらつきの影響の評価を行うことが新たな課題となっている. (2)交通流データから道路状態を予測する手法の開発については,2022年度の6月に国内会議において発表予定である.今年度は,(1)の結果を踏まえ,道路の状態ごとに,自由流速度が異なることに着目して,離散的に区分される道路の状態を推定する手法を定式化した.手法を解析的に定式化するためには,手法内で考慮される各種パラメータを特定の確率分布に従わせ,かつ,1組のデータサンプルから道路の状態を推定させるという仮定が必要であることを明らかにした.しかし,(1)および(2)の内容を進めた成果を学術論文としてまとめ,2021年度中に国際ジャーナルに投稿するには至らなかった.2022年度の前半までには投稿するために準備をしている.以上から,やや遅れていると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
まず,(2)交通流データから道路の状態を推定する手法の開発に重点的に取り組む予定である.先述の通り,現行の手法では,1組のデータサンプルから道路の状態を推定している.分析の対象とするのは,5分間観測に基づく交通流データである.道路交通の需要側を推定する場合,時間的な分解能を小さくする必要があるが,本研究のように,道路交通の供給側を推定する場合には,交通流のパラメータの時間的な変化は相対的に緩やかだと考えられる.また,道路の状態の違いが自由流走行速度に与える違いは非常に微妙である.道路の状態の違いにより,自由流走行速度の平均が変化することはわかっているが,個別のサンプルに着目すると,道路の状態以外の要因により,観測結果は変動しており,明確な分類境界は存在しない.したがって,時系列に沿った複数の組のデータサンプルから,道路の状態を推定する確率を計算する必要がある.2022年度においては,2021年度に開発した手法の定式化を基盤として,複数の組のデータサンプルを考慮できるように,手法の拡張を試みる.新たな定式化とその解法を併せて示すことも課題である. 上記までの研究は,単一の道路区間に着目して,交通流特性および道路の状態を推定しようとするものである.実用的には,ネットワーク規模で道路状態が推定されることが望ましいため,これを行うための手法の開発も進める.
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度には,研究成果の報告のために,国内会議に出席することを予定していたが,新型コロナウイルスの影響により,会議がオンライン化されたことに伴い,旅費として確保していた予算を使用できなかった.2021年度は,分析手法の理論的側面について,重点的に研究を行った.事前の計画以上に,研究に関連する書籍の購入を必要とした.研究計画を立案した時点では,2021年度にワークステーションを購入して,計算を開始する予定だったが,実際には分析手法の理論開発に多くの時間と資源を使ったため,ワークステーションを十分に活用させることが期待できなかった.2022年度は,実データと計算機を使って,開発した手法を検証する作業が中心となる予定である.研究の進展具合と,予算の執行具合を踏まえて,2022年度にワークステーションを購入しても研究上の障害はなく,予算の執行上も問題がないことから,予算を次年度に繰り越すことが適当であると判断した.2022年度は,上述の通り,数値計算のための環境整備および関連書籍の購入,海外ジャーナルへの論文投稿費用,参加する学会への旅費として予算を使用する計画である.
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