研究課題/領域番号 |
21K20440
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
峪 龍一 北海道大学, 工学研究院, 助教 (80908426)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2024-03-31
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キーワード | 冬期道路管理 / 道路ネットワークの不確実性 / 移動時間信頼性 / 確率的交通容量 / 交通データ観測 |
研究実績の概要 |
今年度の主な研究実績は以下の3点である. (1)交通流観測データ(流速,流率)から,路面状態ごとの交通容量および均衡配分モデルにおけるリンクコスト関数のパラメータを確率変数として推定するモデルを開発した.まず,対数正規分布に従う交通容量のパラメータを推定するモデルを開発した.次に,推定した交通容量に基づいて,リンクコスト関数のパラメータを推定するための手法を開発した.この際,リンクコスト関数のパラメータを推定するための尤度関数が解析的に導出されることを示した.提案手法は既往の手法と比較して統計的に整合する点が特徴である.提案手法の妥当性を検証するため,札幌市における冬期道路観測データを用いて数値計算を実施した. (2)交通流観測データが取得されたときに,路面状態のパターンを確率的に推定するベイズ統計モデルを開発した.路上カメラにより撮影された動画を分析して得られた流速と流率,路面状態のデータをモデルに事前学習させることで,動画観測を行わなくとも,プローブ車などによる流速と流率の観測のみから路面状態を分類する確率を導出した.定式化にあたり,モデル内の各変数が従う確率分布間に共役性を仮定することによって提案モデルの全体を解析的に導出した. (3)実道路ネットワーク規模で交通状態を道路リンクレベルで推定する手法を開発した.人口が低密度な地域などで,プローブ車混入率が低いなどの理由により,同時間帯において,一部のリンクでしか流速あるいは交通量が観測されない場合を想定した.限られた交通観測データから道路ネットワーク全体の交通状態を同時分布として推定する手法を,均衡配分モデルを制約にもつ完全情報最尤推定モデルとして定式化した.実道路ネットワークへの適用を目指して,本モデルに適合する感度分析アルゴリズムを実装し,尤度の計算過程を効率化した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3つの研究実績それぞれの進捗状況は以下の通りである.(1)路面状態の異質性を考慮して交通流パラメータを推定するモデルの開発については1件の国内会議において発表済みである.現在,さらに進めた成果を査読付き国際誌に投稿中である.(2)交通流データから道路状態を予測する手法の開発については,1件の国内会議において発表済みである.(3)交通状態をリンクレベルで推定する手法の開発については2件の国内会議において発表済みであり,実データを用いた交通状態推定の結果について査読付き国際会議に投稿中である.2022年度中に開発した手法を拡張したものを,2023年度中に査読付き国際誌に投稿予定である.以上より,得られた成果を逐次公表する段階にあることから,おおむね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
【研究実績の概要】における(2)と(3)の課題を以下のように推進する. (2)路面状態の分類確率を推定するモデルの精度を向上させる.現在のモデルでは計算効率を優先させるため,観測データを入力として,路面状態の分類確率を出力するまでの仮定を解析的に導出している.モデル内で変数が従う確率分布の設定において強い仮定を置くことでこれを実現させている.しかし,確率分布の設定が観測の実態に合わず,モデルの推定精度が低下しているおそれがある.そこで,モデル内の変数が従う分布を自由に設定できるように改良して,モデルの推定精度を向上させる.確率的なアルゴリズムを導入することで,任意の確率分布を仮定したとしても,モデル内の各変数の事後分布を計算できるようにする.確率的アルゴリズムの導入によって,扱える変数が増えることから,路面状態の分類確率を導出する過程で,交通観測データの時系列間の相関を考慮できるようにモデルを改良する. (3)より大規模な道路ネットワークで交通状態を推定できるようにモデルを改良する.これまでに実装した感度分析アルゴリズムによって,尤度の計算における均衡制約が近似的に緩和されて計算が効率化された.しかし,感度を計算するごとに,均衡配分を行う必要があり,これが計算上のボトルネックとなっている.大規模な道路ネットワークを対象とする場合,均衡配分にかかる計算時間が大きくなることから,経路の列挙は必要になるものの,均衡解の収束に至るまでの計算回数が少なくなる,解の更新アルゴリズムを導入することによってこれに対処する.このアルゴリズムは現在使用しているアルゴリズムと比べて,均衡解が厳密な意味で均衡条件を満たしやすくなるため,尤度を計算するための計算精度が向上することも期待している.
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次年度使用額が生じた理由 |
申請時の段階では2022年度に2件の国際会議に参加する予定であったが,新型コロナウイルスの流行に伴い,国外渡航が困難であったため2022年度中の成果の発表を見送った.2022年度の後半より,新型コロナウイルスの流行に伴う移動規制が段階的に緩和されたことから,2023年度に国内外で開催される学会において成果を発表することに計画を修正した.学会に参加するための旅費に加えて,成果を投稿するための投稿料,校正料としても支出を計画している.
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