本研究では,冬期の降雪や積雪などの自然災害の影響によって,道路ネットワークの走行性能が変動するときに,道路ネットワークの走行性能をネットワーク規模で推定するための技術を開発した.研究の方向性は二つある.一つはリンクレベルで道路の走行性能を推定する技術の開発である.冬季の札幌市道上で撮影された車両の走行動画を元データとするリンクレベルの交通流データを使用して,交通流の特性を明らかにした.当該区間における交通流の密度,速度,流率に注目すると,路側の堆雪幅が変化すると流率密度関係が変化することが確認できた.つまり,堆雪幅が変化するとリンクの交通容量も変化することから,堆雪幅ごとのリンク交通容量を確率変数として推定する手法を提案した.先の観測データを提案手法に適用して確率的なリンク交通容量を推定した. もう一つはネットワークレベルで交通状態を推定する技術の開発である.ネットワーク内の各リンクの交通容量およびネットワークそのものの大きさに比して,交通需要が小さくプローブ車の混入率が低い状況では,同時間帯の交通状態を直接観測できるリンク数が少ない.観測機会ごとに観測できるリンクの箇所がバラバラとなる.したがって,ネットワークレベルで交通状態を推定するうえでは時空間的な観測データ量の不足あるいは欠測への対処が必要となる.そこで,ネットワーク均衡制約のある最尤推定問題とその効率的な解法を提案した.交通量と移動時間の不確実性を考慮した交通量配分モデルを仮定するとリンクレベルの交通量と移動時間は多変量の確率分布となる.day-to-dayで観測された交通データを用いて,均衡制約付きの完全情報最尤推定を行って多変量分布を推定した.効率的に最尤推定を行うため,制約となる均衡配分モデルにおいて適当な解の周辺でO-D交通需要の変化分を摂動させる,リンク交通量の感度分析を行うことで均衡制約を緩和した.
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