本研究では,スーパー台風襲来時の洪水・強風同時発生時の河川洪水流の水理特性の解明を行った.風が洪水流に及ぼす影響を精緻に評価するために必要となる三次元流動計算モデルの開発を行った.計算効率に優れる2D計算と高計算負荷・高精度な3D計算を併用するハイブリッドモデルを令和2年7月の球磨川洪水・氾濫流に適用し,観測水位や痕跡水位と比較することで,本モデルの精度検証を行った.加えて,世界的に認知度の高い三次元流動モデルであるDelft3D(Deltares)を用いて,①理想的な仮想水路と②実河道を対象に,河川自流方向に対して順風・逆風・横断方向の風が作用した場合における吹送流の発達や吹き寄せに関する検討を行った.まず,①理想的な水路において,順風・逆風では,風応力作用後,速やかに主流方向流速が増加・減少し,極大値を経てから減少・増加し,定常状態へ移行した.また,風応力に対して,流速の方が水位よりも応答が早いことが明らかとなった.次に,②江戸川の13.5~58.5kpを対象に令和元年台風19号時の流況と風況を基とした解析を行った.ここで,風の空間分布は一様とし,江戸川臨海アメダス観測所の風向風速時間変化を計算領域内に一様に与えた.計算ケースとして,1)無風時,2)実測風,3)実測風速を2倍に引き延ばし,4)風作用継続時間を1.5倍に引き延ばし,5)両方引き延ばし,を計算した.その結果,Case1に対する最大風速時における水位上昇量は,Case2~5についてそれぞれ,0.09m,0.78m,0.11m,1.00mとなり,風速が大きいほど水位上昇量が顕著となった.水位上昇は,上流端で早期かつ顕著に発生した後,下流側に伝播した.今後は,独自モデルに風応力モデルを導入することで,より高効率・高精度にシミュレーション可能とし,風により氾濫リスクが増大しやすい河道地形等について分析予定である.
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