研究実績の概要 |
本研究は、下水処理水中に含まれる溶存有機物(DOM)の中で、人体や環境に対して毒性を示すものや、浄水処理による除去が困難であるものなど、放流先の水利用に対して影響を与えるDOMを探索し、それらの下水処理工程における動態を明らかにすることを目的とするものである。本年度および研究期間全体を通じた研究の成果は以下の通りである。 (1)昨年度に引き続き、複数の実下水処理場において流入下水と下水処理水を採取し、DOM濃縮のため固相抽出を行った上で、精密質量分析計を用いてDOMの分析を行った。その結果得られた1,000以上のDOMピークを解析対象とし、下水処理における動態解析やMS/MS分析による構造推定を行った。 (2)本研究で対象とした下水処理場における有機物の除去率は、BODで98%、DOCで77%であった一方で、流入下水から検出されたDOMピークの75%は下水処理水からも検出されていた。半定量的な手法により、有機物全体の除去率だけでなく、個別のDOMの除去率を概算することができた。 (3)同一の流入下水を4種類の異なる処理方式で処理している下水処理場において、下水処理水から検出されたDOMピーク数は同程度であったが、検出されたピークの種類で見ると、平均で27%は異なっていた。共通して検出されたピークも検出強度が100倍以上異なるものもあり、下水の処理方式によりDOMの除去・分解特性が異なることが示された。 本研究を通じ、微量なDOMの消長を把握するために、精密質量分析による網羅的なDOM分析の有効性が示された。
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