本研究では視覚障害者の自宅に着目し、行為と環境の関係から、空間認知の特性を明らかにした。研究の方法として、視覚障害者の自宅調査と、生活行為の例としてインスタントコーヒーを作る行為を取り上げ、行動実験調査を行なった。 自宅には様々な家具が配置され、様々な行為が展開されている。本研究では、その中から空間の把握と環境の改変が同時に行われる場面に着目し、机などの天板上の物の配置と行為の関係をみることとした。視覚障害者は自宅において、天板上の環境を触覚的に構造化していた。例えば天板の縁に沿ってキーケースやスマートフォンを置くなど、物の探索時に手で触る範囲が最小限となるように工夫されていた。また、物が配置された範囲を把握することが難しいため、お盆やトレイを使って、天板上の空間の領域を明確化していた。 テーブル上における行為の進行過程をみると、視覚障害者はテーブル中央のオブジェクトやテーブルの縁を基準として、オブジェクト同士の位置関係を確認し、空間を把握していた。また、変化する環境を再認するために、物の配置を固定し記憶を重要視する方法と、物の配置を改変しながら高頻度で接触し都度状況を把握する方法の2種類がみられた。全盲/弱視という見え方、行為のどの場面で「接触」を介在させるか、記憶と逐次的な環境把握のどちらを重視するかなどの組み合わせにより、個人の行為と環境の関係が形成されているものと考えられる。 こうした知見は、中途視覚障害者が自宅の空間を構築し直す際の手がかりや、生活行為のリハビリテーションの手がかりとなる社会的意義も有している。
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