豪雪地帯の青森県黒石市歴史的中心商業地を事例に、カグジと呼ばれる町家裏の付属屋+オープンスペースを指す領域の、所有・利用のメカニズムを明らかにすることを目指し、(1)歴史的中心商業地の6街区の長期的な土地所有変化と、(2)カグジの利用実態を、旧土地台帳・登記簿を用いた分析や現地踏査、インタビュー調査によって明らかにした。 (1)については、旧土地台帳が整備された1888(明治21)年から2020(令和2 )年を分析期間として、期間内に対象6街区に存在した全449筆の地目・地積・分合筆・所有者の情報をデータベース化し、10年毎の筆数変化状況、10年毎の地目変化状況、10年毎の所有者変化状況、10年毎の所有権移転状況を街区ごとに整理し、その傾向を明らかにした。例えば1930年代頃までにほぼ全ての畑の筆(=各敷地のカグジの一部)が地目転換し宅地化したことや、1970年代以降に不在地主の割合が増加していること、所有権移転の原因に占める相続の割合が年々増加していることが分かった。 (2)については、対象6街区の敷地間の物理的境界の有無について悉皆調査を行い、各家のカグジを隔てる塀や柵のバリエーションを把握するとともに、4軒の土地所有者にインタビュー調査を行い、カグジの使われ方を調査した。これまでの調査では、隣接するカグジが居住者間で緩やかに共同利用されていたという事実を把握していたが、これに加えて、現在でもカグジを介した交流が存在することを明らかにした。例えば、使われなくなったカグジの一画が隣の家に無償で貸し出され、家庭菜園として利用する例が見られた。また重要な点として、カグジは主に女性たちにとっての居場所であり、家の裏を舞台に、家事の合間の雑談や物々交換など、女性同士のコミュニケーションが行われてきたことを明らかにした。
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