研究課題/領域番号 |
21K20461
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
林 和希 京都大学, 工学研究科, 助教 (80908757)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | 機械学習 / グラフ埋め込み / 鋼構造平面骨組 / 断面最適化 / 非線形問題 |
研究実績の概要 |
各部材の断面サイズを所定のリストから選択する鋼構造平面骨組の離散断面最適化問題を対象として、グラフ埋め込みと強化学習を組み合わせた手法を適用した。強化学習エージェントは、応力・変位・柱梁耐力比などさまざまな実用的な制約の下で、総構造体積を最小化するために訓練を行った。グラフ埋め込みは、接続が不規則なデータから特徴を抽出する手法であり、特に申請者が提案したグラフ埋め込み手法は節点と部材の入力を同時に扱って部材の特徴量を得ることができる数少ない手法であることを既往文献の調査から確認した。 提案したグラフ埋め込みの演算によって、強化学習エージェントは骨組の構造規模によらず同一サイズの特徴ベクトルを抽出でき、接続関係を考慮した柱梁部材の構造性状を把握できるようになった。特徴ベクトルを利用して、強化学習エージェントは、部材の設計変更に関連付けて予め定義した報酬を推定し、強化学習アルゴリズムを使用して適切に部材断面を設計変更できるようにトレーニングを行った。 数値例題では、訓練済のエージェントは断面設計の計算コストと設計品質の両方の面において、ベンチマークとして採用した粒子群最適化手法よりも優れた結果となった。また、これまで検討してこなかった層ごとにスパンの異なる複雑な骨組モデルに対しても訓練済エージェントが有効に作用することが確認できた。 さらに、トラスの線形構造解析から得られるコンプライアンスを予測するために、トラス全体の特徴量を予測する数理モデルを構築した。この予測モデルは全ての節点・部材の入力を全結合して単純な関数近似モデルであるマルチレイヤ―パーセプトロンに入力して得られる予測結果と比べて良い予測精度を発揮した。したがって、提案するグラフ埋め込みモデルが離散構造物の性状をより正確に把握できるモデルであることが確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は計画通り、建築構造の設計問題を強化学習タスクに変換してグラフ埋め込みを用いた機械学習モデルを適用した。プロジェクト開始時までに開発していたグラフ埋め込み手法は訓練時にグラフが同一の接続関係を有する必要があったが、ブロック行列化を導入することで、任意の接続関係をもつグラフを訓練に用いることができるようになった。これにより、多様なトラスや骨組に対して汎用的な性能を発揮する設計エージェントの生成が可能となった。 鋼構造平面骨組の応力・変位・柱梁耐力比・保有水平耐力の制約を考慮した部材総体積最小化問題を対象としてグラフ埋め込みモデルを適用し、訓練したモデルが多様なスパン・層数の骨組に対して適切な断面を選定できることを確認した。また、既往研究を調査し、開発したグラフ埋め込み手法が節点とエッジの入力を同時に扱い、エッジの特徴量を抽出できる数少ない手法であることがわかった。以上の知見をもとに専門誌Advanced Engineering Informaticsに論文を執筆し、掲載が決定した。 その他、国内外の学会で口頭発表を行い、開発した手法と構造設計問題への適用性について研究成果を広く共有した。
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今後の研究の推進方策 |
昨今の建設費の増加に対応し、建設工事の安全を確保するためには、建設工程の効率化がますます重要となっている。合理的な建設計画を作成するための最適化手法は多く存在し、 特に、個別の構造部品を組み立てる順序を最適化する問題は、膨大な数のパターンを伴う組合せ最適化問題であり、ロボットを用いた施工計画において近年関心のある分野でもある。そこで、トラスの部材を一本ずつ組みたてるプロセスを強化学習タスクで定義し、開発したグラフ埋め込みモデルを用いて施工シークエンスを最適化する問題に取り組むことを予定している。 また、構造物のより複雑な性状を捉えられるかを検証するために、シェル構造の座屈性状を対象とした予測問題を取り扱う。一般にシェル構造はわずかな変形においても釣合い状態が大きく変化するため、幾何学的非線形性を考慮して設計する必要がある。提案するグラフ埋め込みモデルを用いてシェルの弾性座屈荷重や非線形座屈荷重を予測できるように教師あり学習による訓練を行い、シェル構造の非線形構造性状を予測するモデルを構築する予定である。 さらに、デジタルファブリケーションのような次世代造形技術を見据えた構造物の設計例として、レーザーカッターで切断加工した複雑な形状のメタマテリアルの構造性状を予測するために提案する機械学習モデルを適用することも検討する。
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