本研究で得られた成果を以下に示す。 (1) 2021年度に行ったひずみ測定では凍結融解過程のレンガの変形の異方性がかなり大きかったことから、2022年度にはanisotropic poroelasticity理論にもとづき力学物性だけでなくporoelastic parameterの異方性に着目し、凍結融解過程の焼成材料内の熱水分移動と応力・ひずみ変化のモデル化を行った。凍結融解過程の材料の各方向の変形に対し、氷の及ぼす圧力による膨張、熱収縮、他の軸方向の変形に応じたポアソン効果といった各要素が及ぼす影響を示し、変形の異方性が生じるメカニズムを明らかにした。 (2) 2021年度には組積造壁体を対象とした熱水分移動の数値解析により、壁体構成が吸水・凍結過程に及ぼす影響の検討を行った。2022年度には、さらに応力・ひずみ変化との連成解析モデルを用い、劣化が報告されている寒冷地の組積造壁体を対象とした検討を行った。温度変動と日射を外気条件として与える実環境を想定した数値解析により、寒冷地において凍結融解に伴い材料内の液水や氷の圧力が上昇し凍害リスクが高まる時期や位置を明らかにした。 欧州では断熱改修に伴う組積造壁体の劣化リスクの変化への関心が高く、文化財建築の保存は国内外問わず急務の課題である。このような課題に対し用いることができる適切な数値解析モデルの検討を行ったことや、建物が晒される環境条件を考慮し、実験室実験では再現が難しい実際の建築物を想定した壁体の劣化メカニズムを示したことがこれらの成果の意義である。
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