本研究は、水害軽減を考慮した将来の土地利用再編シナリオを提案し、そのシナリオを水害軽減の視点からだけでなく、生活利便性等のその他の視点からも評価することで、水害軽減と生活利便性向上を図る土地利用配置を明らかにすることを目的としている。 2021年度では、水被害軽減のための複数の対策(①土木インフラ整備、②高床化、③建物移転、④居住誘導)によって生じる費用と便益を算出し、費用便益の観点から、各対策の適正配置を検討した。 2022年度は、前年度に検討した洪水対策適正配置(①土木インフラ整備、②高床化、③建物移転、④居住誘導)から、水害軽減に向けた将来の土地利用シナリオを作成し、水害被害コスト軽減と生活利便性の両点より評価することで、それら土地利用再編によって得られる効果をそれぞれ把握した。具体的には、2050年を対象に洪水対策として、「④居住誘導」が適切な対策(費用便益が最も高い)とされたエリアから、三原市策定の居住誘導区域に居住誘導を行った際の人口分布シナリオ(水害軽減シナリオ)と2050年まで現状の土地利用が維持されたまま人口が推移するシナリオ(現状推移シナリオ)をそれぞれ作成し、シナリオ別に洪水による被害コストと生活利便性(商業施設、福祉施設、医療施設、公園といった日常生活サービスの徒歩圏(800m)人口カバー率)を算出し、比較した。その結果、現状推移シナリオに比べ、水害軽減シナリオでは、水害被害コストだけでなく、生活利便性の評価も高い傾向がみられた。そのため、洪水対策の費用便益評価を考慮した土地利用再編(居住誘導)には、水害による被害軽減だけでなく、その他の効果も一定程度、期待できると考えられる。
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