研究課題/領域番号 |
21K20472
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
渕上 貴代 近畿大学, 産業理工学部, 助教 (30907936)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | 熊本地震 / 災害公営住宅 / 公有住宅 / 仮設住宅 / 被災者 |
研究実績の概要 |
熊本地震により整備された災害公営住宅は2020年3月末をもって全てが竣工し、現在被災者は新しい暮らしに慣れてきた時期である。そのため被災者の暮らしに着目した調査研究が可能となってきたと言える。 これまでの研究では、行政による災害公営住宅の発注方法や住居形式の決定理由について、自治体担当者へのヒアリング調査を元に、各市町村の被害状況や住宅政策の違いを踏まえて傾向を分析してきた。一部の設計者に対しては、ヒアリング調査や図面等の資料収集を行った。本研究では、住民による住まい方や使われ方調査を中心に行っているところである。以上の調査から行政や設計者の意図と住民のニーズを照らし合わせ、熊本地震における災害公営住宅の計画の適性について考察することを本研究の目的としている。 2021年度はコロナ禍のために、被災者へのヒアリング調査はほぼできなかった。そこで、主に行った調査は、住戸の外廻りに表出している物の記録である。表出物は人が自分の場所であると認識する空間的領域を表すものとともに、近隣交流を形成する手がかりとなるためである。表出物と住戸の配置計画や平面計画を照らし合わせることで、コミュニティの促進を図る計画について探ることを大きな目的とした。コロナが落ち着き、県外への移動ができる時期を狙って調査を行った。 この調査により得られた結果としては、次の3つである。一つ目は、住戸周りの表出物は入居してからの時間の経過が長いほど多くあったことがわかった。竣工時期が遅いものほど、植栽などの表出物が少なかった。二つ目は、共用空間が玄関側と居室側の両方に面している住戸は表出物が多かったことである。これはコミュニティのきっかけとなる場所が多いことが一因だと考えられる。三つ目は、表出物が多い住戸は団地内の一定のエリアに固まって配置していたことである。エリアごとに人間関係が構築されているためだと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究では災害公営住宅居住者へのヒアリングをメインの調査方法としているが、コロナ禍で緊急事態宣言や重点措置が数回発令され県外への移動ができない時期が続いたため、進捗が大幅に遅れている。調査できた際でも、大勢との接触がないように外からの住戸廻りの様子から表出物について記録した程度で、居住者とは積極的にコミュニケーションを取ることができていない。そのため、表出物からコミュニティの形成をある程度予想することしかできず、コミュニティの実態を把握するところまでは至らなかった。 また、表出物を分析することによっていくつかの傾向を見ることには成功したが、研究成果として外部に発表することができておらず、今後の大きな課題である。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、積極的に住民へのヒアリング調査を行う予定である。2021年度の調査では、住民へのヒアリング調査はほぼできなかったが、年度末には数名の住民とアポイントを取って話す機会があり、今後の調査協力について話し合うことができた。コロナの影響で調査が難しくなる場合の対策として、調査対象の住宅団地を事前に住民からの調査協力が得られているものに絞り、Web会議システム等を使って遠隔からでも住民に協力してもらう体制を作る等の調整や工夫をしていきたい。 また、2018年頃から熊本地震における木造仮設住宅の恒久化について研究を行ってきたが、木造仮設住宅の恒久化した後の住戸の使われ方調査を同時に行うことができれば、災害公営住宅の対比的に分析することができる。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により本研究の元となる現地ヒアリング調査をほとんど行うことができず、計画が大幅に遅れている。そのため2021年度は数回の旅費のみで少額しか使うことができなかった。そこで、2022年度は当初の予定より調査人員を増やし、旅費と人件費を大幅に増やす計画である。具体的には国内旅費については合計50万円ほど残額があるが、一回の調査で4人x10千円=40千円だと想定すると、計8回の調査で消費することとなる。人件費については合計44万円ほど残額があるが、2人のバイトを雇用する計画としており一年間で使用することを想定している。 また、ほとんど現地調査できなかったため、データを整理するための設備備品費や消耗品費を全く使用することができていないが、すべて2022年度に回すことで使用する計画とする。
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