研究課題/領域番号 |
21K20477
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
上村 源 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (20909642)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | チタン / 脱酸 / 希土類 / リサイクル / 溶融塩 |
研究実績の概要 |
チタン(Ti)やチタン合金は、優れた耐食性や高い比強度を示す、革新的な金属材料である。近い将来、航空機産業などにおいて、チタン需要の増大が予想されている。チタン材料の加工工程においては、酸素(O)に汚染された大量のチタンスクラップが発生している。しかし、現在の工業的技術では、チタンスクラップから直接酸素を除去することが不可能であるため、スクラップをチタン製品の原料としてリサイクルすることは非常に難しい。本研究では、チタンスクラップの効率的リサイクルプロセスの実現を目指して、チタンスクラップから不純物酸素を直接、100 mass ppmレベルの低濃度まで除去する、チタンの革新的な脱酸技術を開発する。 2021年度の研究では、チタンスクラップの脱酸剤として、需要の開拓が望まれる軽希土類金属のセリウム(Ce)の利用に着目した。具体的には、セリウムを脱酸剤として、塩化カリウム(KCl)や塩化セリウム(CeCl3)を脱酸反応の反応媒体(フラックス)として用い、チタンの脱酸実験を行った。塩化カリウムフラックス中では、セリウムオキシクロライド(CeOCl)の生成反応を利用することにより、1000 mass ppmレベルの低濃度までチタンを脱酸できることを明らかにした。さらに、塩化セリウムフラックス中では、セリウムオキシクロライドの生成反応を利用することにより、100 mass ppmレベルの極低濃度までチタンを脱酸できることを明らかにした。本研究におけるセリウムを用いる新しいチタンの脱酸技術の開発は、チタンスクラップリサイクルの促進に大いに寄与すると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
希土類金属の1つであるセリウム(Ce)を脱酸剤として用い、セリウムオキシクロライド(CeOCl)の生成反応を利用するチタン(Ti)の脱酸技術の開発を行った。具体的には、塩化カリウム(KCl)や塩化セリウム(CeCl3)をフラックスとして用いる脱酸プロセスを実験的に検証した。塩化カリウムフラックス中では、1000 mass ppmレベルやそれ以下の低酸素濃度までチタンの脱酸が進行した。塩化セリウムフラックス中では、100 mass ppm以下の極低酸素濃度までチタンの脱酸が進行した。脱酸生成物としてセリウムオキシクロライドが生成しており、セリウム/セリウムオキシクロライド/塩化セリウム平衡の、チタンに対する極めて高い脱酸能力を実証した。本研究を通じて、セリウムを用いるチタンの新規脱酸プロセスの可能性を示した。また、これまで報告がなかった、高温におけるセリウムオキシクロライドの熱力学データを初めて得ることができ、学術的意義が大きい結果となっている。 予備的な検討として、脱酸剤であるセリウムとフラックスから物理的に離してチタン試料を設置したところ、フラックス中に設置したチタン試料同様、脱酸が進行していた。金属セリウムの蒸気圧は極めて低いため、金属セリウムの蒸発により生成したセリウムのガスが、気相を介してチタン表面へと移動し、チタンを脱酸する可能性は低いと考えられる。この脱酸反応機構の詳細は検討中であるが、フラックスなどの付着物が少ない低酸素濃度のチタンが得られた点は非常に興味深い。 本研究結果について、国際会議講演1件(プロシーディングス1件)や国内学会講演1件などを通じて、対外発表を着実に進めている。英語雑誌論文1件の投稿も完了している(アクセプト済み)。1年目終了時としては、当初の目標をはるかに超える研究の進展があったと言える。
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今後の研究の推進方策 |
セリウム(Ce)を脱酸剤に用いるチタン(Ti)の熱化学的脱酸については、温度などの実験条件を変更させて実験を行い、セリウム/セリウムオキシクロライド(CeOCl)/塩化セリウム(CeCl3)平衡によるチタンの脱酸限界やセリウムオキシクロライドの熱力学的性質を詳細に調査する。また、気相を介して進行した脱酸については、反応系に共存させる塩化物フラックスやガス種を複数種検討し、脱酸反応機構の解明ならびに気相を介する新規脱酸技術の開発を目指す。 さらに、電気化学的手法を用いる新しいタイプの脱酸プロセスへと展開する予定である。塩化物系に加えて、高温操業に適したフッ化物系も利用する。電気学的手法では、脱酸生成物である酸化物イオン(O2-)を、炭素(C)アノードでの酸化を通じて一酸化炭素(CO)ガスや二酸化炭素(CO2)ガスの形で連続的に除去可能となる。金属セリウムやセリウムハライドを再生しながら、半連続的にチタンを脱酸可能な電気化学的脱酸プロセスの開発を目指す。 上記の研究では、チタン合金も用いた実験も行い、チタン合金中の添加元素が脱酸限界に及ぼす影響やチタン合金の組成変化を調査し、実用化を見据えた研究を行っていく。これらの研究を通じて、チタンスクラップのリサイクル促進とセリウムの新規需要開拓を両立する、チタンの革新的脱酸技術の開発を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の拡大により、国内外での学会やワークショップがオンライン開催あるいは中止となり、旅費などが不要となったため、次年度使用額が生じた。2022年度は、新規実験に用いる試薬や高純度ガス、反応容器部材に使用する予定である。また、国内外での成果発表のための旅費や英語投稿論文のための英文校正などに使用する予定である。
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