チタンの加工工程で大量に発生しているチタンスクラップは、多量の酸素に汚染されていることが多く、チタン製品の原料として再利用するのが難しい。本研究では、酸素濃度の高いチタンスクラップのリサイクルを可能とするために、希土類元素のセリウムを用いて、チタンから酸素を直接除去する革新的脱酸技術の開発を目指した。 はじめに、脱酸限界に及ぼす反応媒体の影響を調べるために、塩化カリウムや塩化セリウムといった塩化物反応媒体中でセリウムを脱酸剤として利用し、チタンの脱酸実験を行った。塩化カリウム中では、セリウムオキシクロライドの生成を通じて、1000 mass ppmレベルまでチタン中の酸素濃度が低下した。一方、塩化セリウム中では、セリウム/セリウムオキシクロライド/塩化セリウム平衡により、100 mass ppmレベルの極低濃度までチタンの脱酸が進行した。この脱酸結果をもとに、これまで報告がなかった、高温におけるセリウムオキシクロライドの熱力学データを初めて得ることができた。 さらに、セリウムと反応媒体から物理的に離して設置した一部のチタン試料についても脱酸が進行していた。このような気相中における脱酸機構を解明するために、反応系内に存在する塩化物やガス種の組み合わせを変えて脱酸実験を行った。その結果、金属カリウムのガスと塩化セリウムのガスの置換反応を介して、気相中に設置したチタンの脱酸が進行した可能性が示唆された。このような脱酸機構では、反応媒体にチタンを直接接触させる必要がなく、反応媒体の付着量が少ないチタンが得られるため、チタンと反応媒体の分離も容易となる。 本研究により、セリウムを用いてチタンから酸素を効率的に除去できることが示された。セリウムを用いるチタンの脱酸技術は、酸素を含むチタンスクラップのリサイクルプロセスの実現に大いに貢献すると期待される。
|