研究課題/領域番号 |
21K20478
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中村 乃理子 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任研究員 (80910174)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | 有機半導体ポリマー / ナノ沈殿法 / 腸内細菌叢 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、疾患に関連した腸内細菌叢の組成変容に着目し、これを簡便に可視化できるようなイメージング技術の開発を目指す。腸内細菌のイメージング技術は未だ開発途上にあり、低分子蛍光色素により細胞膜をラベル化する既往の手法は蛍光輝度の向上と細胞膜の機能維持がトレードオフにあるという課題を有する。そこで、本研究課題では蛍光分子をナノ粒子として集積化することによる、細胞膜の機能に影響しないラベル化技術を提案する。 蛍光プローブをナノ粒子として集積化した有機半導体ポリマーナノ粒子(Pdot)は高輝度なため、低分子蛍光色素のように細胞膜上に無数の蛍光分子を修飾せずに腸内細菌を可視化することができると期待される。Pdotを用いて腸内細菌をラベル化することにより、腸内細菌の増加に伴う1細胞あたりの蛍光輝度の減少、腸内細菌の減少に伴う系全体における蛍光輝度の減少を指標として菌組成の変容の観測を目指す。申請者はサイズの異なるPdotを合成したとき、その輝度が有機半導体ポリマーの重量に依存する、すなわち大粒径のPdotほど1粒子あたりの輝度が増大することを確認した。Pdotを用いたバクテリアのラベル化に基づく腸内細菌叢の組成変容のモニタリングは新規の試みであるが、Pdotのサイズ増大に伴う1粒子あたりの蛍光輝度の向上と立体障害による細胞膜機能への影響がトレードオフになることが予想される。 そこで、Pdot合成に用いる分散安定剤の加水分解速度が粒子サイズを決定するパラメタであることに着目し、粒子合成時の水層の塩濃度を最適化することで、pHの調節による数十~数百nmの広範囲における精密なPdotサイズの制御を実現した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Pdotによるバクテリアのラベル化においてPdotのサイズ増大による1粒子あたりの蛍光輝度の向上と立体障害による細胞膜機能への影響がトレードオフになるという予想に基づき、簡便に広範囲でPdotのサイズを制御できる新規合成手法を提案した。また、表面にポリエチレングリコールを修飾し生体分子との非特異的相互作用を抑制したPdotを用いて培養細胞への取り込みを評価することで、本合成手法により得られたサイズの異なるPdotが生体分子とナノ粒子との相互作用におけるサイズの影響を評価するツールとなる可能性を示唆した。この結果は投稿論文としてRSC Advancesに掲載された他、学会での発表も行っている。 加えて、良溶媒中におけるポリマー濃度を希釈することで、これまで合成出来なかった粒径20 nm以下のPdotの合成にも成功した。さらに、新規合成手法が複数の蛍光波長の異なる有機半導体ポリマーを用いたPdot合成に適用可能であることを確認し、マルチカラーによる腸内細菌叢のモニタリング実現への可能性が示された。
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今後の研究の推進方策 |
Pdotによるバクテリアのラベル化実現に向けて、本研究課題ではバクテリア表層のグリコガリクスを修飾する手法として糖代謝工学に着目した。ラベル化に用いる糖リガンドの候補としてガラクトース、マンノース、グルコースの末端をアミノ基に置換した誘導体を選択し、分散安定剤の加水分解により粒子表面に形成したカルボキシ基にEDCカップリングにより結合する。 得られた糖修飾Pdotのバクテリアへのラベル化と機能評価を行う。腸内細菌の例として、数種類の嫌気性バクテリアを選択し培養する。培地中に糖修飾Pdotを添加することで各種バクテリアのラベル化を行い、糖リガンドの種類、導入量および粒子サイズを最適化する。菌組成の変容に伴う蛍光輝度の分布の変化は共焦点レーザー顕微鏡による観察および画像解析により行い、腸内細菌叢の組成変容のモニタリングのコンセプトを実証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
嫌気性チャンバーを購入予定であったが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う物流状況の悪化により、当該年度中の購入が困難であった。現在、見積依頼中であり、次年度速やかに購入予定である。
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