カーボンニュートラル達成に向けた製鉄プロセスの抜本的転換(高炉法→電炉法)を念頭に、電炉アークと溶鉄の界面における窒素吸収現象の解明と制御性の確立に向けた基礎的測定の実施を目的として実施した。 1年目は①実験系の構築、②室温での予備実験、③高温環境での溶鉄・アーク実験を実施した。特に、①実験系の構築について、高温の電気炉内に、ガス制御・評価系、 アーク制御のための電気系・電極制御系、光学測定系、試料採取機構等の全てを導入した独自の実験系を構築した。また②、③において室温及び高温の炉内でのアークの発生と分光測定実験を実施した。しかし、アークが高速で動き回るため、一瞬を切り取ったスナップショットでの分光スペクトル測定にとどまり、測定結果の代表性が課題として残った。 2年目はこの動き回るアークに対して多数回測定と統計的解析により発光種の分布を測定した。さらに、アークとは独立して炉の温度を制御できる前年度に構築した実験系を生かし、アークの温度依存性を測定した。これらの実験系の工夫の結果、前年度よりも詳細かつ定量的な発光スペクトルの位置分解測定を実施できた。また、溶鉄の窒素吸収現象において従来測定されてきた窒素原子だけでなく、NOやCN等の窒素を含む分子系の発光種についても発光強度分布を測定した結果、安定して存在できる温度が低い粒子種ほど広範囲に分布していることを示した。さらに、この発光種分布やアーク温度分布が周囲温度によって異なり、周囲温度が高温の場合の方が、むしろ陽極(溶鉄)側での緊縮が強く働くことなどを示した。このように、本研究で構築した実験系を用いた高温実験の有用性を示すとともに、今後窒素吸収現象の解明に必要な、溶鉄上のアークの基礎的知見を得ることができた。
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