無機半導体中の転位は,その中心部において結合欠損が生じており,局所的な組成の偏りを有するため,しばしば正もしくは負に帯電することが知られている.その結果として,転位は電荷を有するキャリアと相互作用を生じうる.しかしながら,そうした転位-キャリア間で生じる相互作用が無機半導体の変形特性(転位の運動性)に及ぼす影響については不明な点が多い.そこで当該年度には,酸化チタン(TiO2)結晶について光環境制御下における硬さ試験を実施し,光励起によるキャリア発生が結晶の硬さに及ぼす影響について評価を実施した. まず,光照射による硬さの変化を正確に評価するための環境整備を行った.光照射下において硬さが上昇することが既に報告されている硫化亜鉛(ZnS)結晶を用いて,光照射による硬さ変化を抽出できることを確認した. 続いて,光が存在しない暗所下および波長の異なる様々な光照射下について,酸化チタン(TiO2)結晶表面の硬さ測定を実施した.硬さ試験後に表面形状の観察を行ったところ,いずれの光環境条件下においても,圧痕周辺にすべり線および微小クラックの形成がみとめられた.圧子の押込みにより,転位の運動によるすべり運動,および,クラックの発生・伝播が生じていると考えられる.また,暗所下および光照射下それぞれについて圧痕の形状から硬さを算出したところ,光照射により硬さが変化する傾向にあることがわかった.このようにして,酸化チタン結晶において光環境がその変形特性に影響を及ぼす可能性があることが示唆された.
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