研究課題/領域番号 |
21K20498
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
志賀 大亮 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (00909103)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2024-03-31
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キーワード | 強相関電子系 / 酸化物ナノ構造 / 放射光電子分光 / 薄膜・表面界面物性 / 酸化物エレクトロニクス |
研究実績の概要 |
本研究では、局所的なキャリア濃度変調を施したVO2多層ヘテロ構造の接合界面に誘起される特異なモット転移に伴う電子構造変化を放射光電子分光により直接決定し、素子動作の物理的機構を解明することを目的とする。本質的な情報を得るために、全実験行程を超高真空下で実施可能な「その場放射光電子分光+レーザー分子線エピタキシ」複合装置を用いる。 その一環として、僅かにV4+→Cr3+化学置換によりホールドープを施したCr:VO2に着目した。Cr:VO2はM1 相とは異なるV-V二量化を示す絶縁体相が発現することが知られている。当該年度では、C:VO2/TiO2 (001)エピタキシャル薄膜の複雑な電子相図の起源を明らかし、二層構造の設計指針を得る目的で、その場放射光電子分光による電子状態観測を行った。具体的に、電子状態の変化を軟X線光電子分光により、V4+-V4+二量体形成の変化をX線吸収分光により調べた。その結果、Cr:VO2においては、Cr3+置換により集団的V-V 二量化が抑制されていることが示唆された。それにもかかわらず、低温の絶縁体相においては、フェルミ準位上のエネルギーギャップは本質的に変化していないことが分かった。これらの結果から、Cr:VO2の電子相転移はV-V 二量化に支援されたモット転移であると結論づけた。一方、温度依存相転移を示さないCr:12at%では、フェルミ準位上にモットギャップが観測された。以上の結果から、Cr:=>12at%のC:VO2においては、モット不安定性がパイエルス不安定性に打ち勝つことでV-V 二量化を伴わないモット絶縁体相が安定化すると結論付けた。 今後はこれらの知見に基づき、VO2/Cr:VO2二層構造を作成することで、通常のR/M1ヘテロ構造とは異なる電子相界面の調製を目指す。この界面に電子・構造相転移を誘起し、その時の電子状態変化を放射光電子分光を用いて調べることで、VO2チャネル界面の挙動を明らかにしていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究計画の主軸は、化学ドープしたVO2薄膜ヘテロ構造の調製と、チャネル界面隣接領域における電子構造変化の放射光局所解析である。1)電子ドープ W:VO2/VO2(001)ヘテロ界面、及びその天地反転構造に誘起される電子相転移現象に伴う電子構造変化について、その実空間分布を特定した。現象を体系的に理解し論文報告するのためには、追加で面方位依存性を詳にする必要がある。当該年度では、2)Cr3+置換により ホールドープしたVO2薄膜を作製し、輸送特性評価と放射光解析に基づき電子相図を決定した。今後、この電子相図を拠り所に、Cr:VO2二層ヘテロ構造における電子相転移を調べる。
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今後の研究の推進方策 |
1)W:VO2薄膜二層構造に発現する界面誘起電子相転移の‘弾性ひずみ依存性’を調べる。具体的には、TiO2(001)以外に(111)及び(110)単結晶基板を選択し、Vイ オンの二量化軸を系統的に傾倒(面直→面内配向)させる。これにより電子蓄積時の素子動作における界面効果を検証する。2)Cr:VO2薄膜二層構造に発現する界面誘起電子相転移の起源を調べるために放射光電子分光を行う。以上の素子界面誘起電子相転移のスクリーニングに基づき、実際にトランジスタ構造を作製し、最適な素子動作を実証する。これにより、VO2素子構造の設計指針を構築する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画の見直しが必要となったため。W:VO2二層構造の面方位依存性を調査するため、面方位の異なる薄膜成長用基板の購入、作製した薄膜の二次イオン質量分析などに充当する。
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