研究課題/領域番号 |
21K20501
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
平田 海斗 金沢大学, 新学術創成研究機構, 博士研究員 (50909984)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | 原子間力顕微鏡 / 液中電位計測技術 / 電気化学 / 局所腐食 / 高Cr基合金 |
研究実績の概要 |
我々が開発してきた原子間力顕微鏡ベースの液中電位計測技術(OL-EPM)を局所腐食や触媒反応などの電気化学現象にこれまで応用してきた。一方で、装置原理により従来のOL-EPMは、電解液濃度10 mM以下での計測に制限されている。しかし、実際の電気化学現象は、それよりも高濃度電解液中で生じる場合が多く、その環境でしか観察されない現象もある。よって計測環境の改善は本技術の課題である。本研究では、濃度制限の課題を解決することで100 mM以上の電解液中でも計測可能なOL-EPM技術を開発し、より実態に近い濃度環境中で電気化学現象を理解することが目標である。 OL-EPMは、導電性のAFM探針と試料の間に液中のイオンが追従できないほどの高周波な交流信号を印加することで電解液中でも電位計測が可能である。つまり、印加信号の周波数により使用できる電解液濃度が決定する。一方、その周波数は通常、カンチレバーの共振周波数以下に制限される。本年度ではこの問題を解決するため、より高周波な超小型カンチレバーの検討とカンチレバーの2次共振周波数を用いたOL-EPM技術の開発の2つの研究アプローチを試みた。超小型カンチレバーに関しては、利用プロセスが確立できたことで電位計測できる実用段階まで進んでおり、従来よりも高濃度での計測を実現している。一方で、2次共振周波数を用いたOL-EPM技術に関しては、電位の信号取得に成功したが形状由来のエラーが含まれており、次年度ではその解決が必要である。 応用研究では、腐食や触媒などの電気化学現象を計測する。本研究計画中では、石油の掘削用パイプなど過酷環境下で用いられる高耐食性なCr基合金の計測を行う。まずは従来のOL-EPMで計測を行ったが、低濃度電解液中では腐食しないことが分かった。よって、次年度では開発した技術を用いて高濃度電解液中での計測を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、高濃度電解液中で電位計測できるOL-EPM技術の開発と、それを用いた電気化学現象の解析を目標としている。本年度は、高濃度電解液中での計測実現に向け、超小型カンチレバーを用いるための技術確立と、2次共振周波数でのOL-EPM技術の開発を行った。また、応用研究については、Cr基合金の局所腐食を理解するため、まずは従来のOL-EPMによる電位計測と腐食(浸漬)試験による評価を行った。 超小型カンチレバーについては、導電性コートをスパッタリングで行うとレバー全体に薄膜が形成されるため重みで曲がり使用できないことが分かった。この問題に対して、収束イオンビーム-走査型電子顕微鏡(FIB-SEM)で探針のみをAuコートする方法を提案し、解決に成功した。これにより従来から4倍程度の高周波カンチレバーを電位計測で使用可能になったため、10 mM以上の濃度でも十分計測できると期待する。次年度では、現在のカンチレバーでの使用濃度の限界を評価する。また、2次共振周波数でのOL-EPM技術に関しては、2次共振近傍で変調することで電位計測のための信号検出が可能であることが分かった。一方で、計測中の2次共振のシフトが原因で、形状由来のエラーが含まれていることが分かった。これに関しては、次年度でより詳細に精査する必要があると考える。 応用研究のCr基合金に関しては、低濃度・室温では腐食が進行していないことが分かった。浸漬実験で腐食条件を評価すると、100 mM以上かつ60℃以上の環境が必要と分かった。高濃度に加え、高温での計測が必要となるため、次年度では温度制御機構も同時に開発を進める。 採用された2021年10月から2022年3月までの期間で行った実施内容を総合的に判断して、概ね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の成果を基に、引き続き高濃度電解液中で計測可能なOL-EPM技術の開発と、それを用いたCr基合金の腐食現象の理解に取り組む。上記した通り、高周波な超小型カンチレバーのOL-EPMへの実用はすでに成功しているため、本技術により電解液がどの程度の濃度まで使用できるかを実験値の傾向が理論式と一致するか比較することで調べる。また、2次共振周波数によるOL-EPM技術については、2次共振周波数を使用した際に生じるエラーについて、探針-試料間フィードバック制御をFM変調にすることでエラー信号を抑制できるか検討する。また、2次共振でOL-EPM計測する場合の問題点をよりシンプルにして明確にするために、大気中での計測を行う。必要があれば、片持ち梁を構造力学的に解くことで2次共振の伝達関数を見積もり、取得した信号を補正する。さらに、2次共振を、位相同期回路を用いて一定に制御することで、形状由来の共振変化を抑制できると考える。上記が実現できれば、2次共振でも電位計測できるOL-EPM技術を実現できると考える。これら超高周波カンチレバーと2次共振周波数OL-EPMの組み合わせによって、さらに高濃度電解液中でも計測を実現できる。 今年度の取り組みでCr基合金は、低濃度電解液・室温では腐食が進行せず、高濃度・高温度中に環境を制御する必要があることが分かった。そこで、次年度では、温度可変なセルを開発する。温度可変には、ペルチェ素子やヒーターを用いる。また、温度上昇に伴い、セル中の溶液揮発が懸念される。そこで、湿潤環境を保つことが可能な密閉セルが必要と考える。これら環境制御セルと高濃度電解液中でも計測可能なOL-EPMを用いることでCr合金の腐食メカニズム解明を目指す。
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