研究課題
本研究では、優れたスピン伝導特性が予想され、かつ量子機能を発現する様々な局在スピンをホストする半導体であるSiCにおいて、局在スピンと伝導電子スピンの機能を融合した新たなスピントロニクスの創出を目指しており、その第一ステップとしてSiCへの電気的なスピン注入による伝導電子のスピン偏極の実現と、局在スピンと伝導電子スピンの相互作用を介した局在スピン制御の可能性を探る。本年度は、SiCへの電気的スピン注入の実現を目指し、昨年度作製したデバイスを改善すべく、作製プロセスの検討を実施するとともに、本研究において制御を試みる対象である局在スピンの局所的な検出技術の開発に取り組んだ。スピン注入の検出デバイスを実現する上で、SiCと強磁性電極の位置が微細スケールで整合した構造が重要である。偏極スピン源となる強磁性電極はイオンミリングで加工可能であるが、SiCはその強い結合ゆえにミリング加工が容易でない。今年度は、イオンミリングと反応性イオンエッチングをハイブリッド化した加工手法を検討し、強磁性電極とSiCを整合して同一パターンに加工する技術を開発した。今後は、電子線描画による微細電極への適用を進め、スピン注入デバイスの実現を目指す。局在スピン検出の研究においては、伝導電子スピンの拡散長がマイクロメートル程度であると予想されることから、相互作用現象も同様の空間スケールで生じると想定される。ゆえに、局所的な領域における局在スピンの効率的な検出手法の開発が必要である。今年度は、顕微鏡下のレーザー照射でSiC中のSi空孔欠陥から発生する蛍光あるいは光電流を用いることで、Si空孔スピンと超微細結合した29Si核スピンの磁気共鳴を光学的あるいは電気的にマイクロメートルスケールの領域で室温にて観測することに成功した。このように、伝導スピンと局在スピンとの相互作用を検証する上で重要な要素技術を開発できた。
3: やや遅れている
現時点でスピン注入の実現には至っておらず、当初の計画からの遅れは生じているものの、スピン注入を目指したデバイスプロセスの開発を進めたことに加え、局在スピンの検出手法開発に関しても室温での局所的な核磁気共鳴を実現することができ、大きな進展があったと考えている。局所的な核磁気共鳴は光学的・電気的な方法の両方で観測できており、本研究で目指す伝導電子スピンと局在スピンの相互作用の検出に際しては、光学的・電気的検出のうちどちらが適するかについても検討して適用してゆく。
SiCへの電気的スピン注入の実現を目指し、引き続きスピン偏極源となる電極とSiCとの界面の最適化に取り組むとともに、デバイス作製のための微細加工条件の最適化を推し進める。界面最適化においては、半導体側の最適な不純物濃度について、不純物導入法も含めて再検討を引き続き進めるとともに、適切な強磁性電極材料の探索を行う。室温および低温における金属/SiC接触界面の電気伝導特性を評価することで半導体中にスピン偏極を生成するために適した界面を選定し、また開発を進めている微細加工技術を適用することでデバイスを試作し、電気的スピン注入の実現を目指す。スピン注入が実現すれば、伝導電子スピンと局在スピンの相互作用の検出を目指して研究を遂行する。
実験設備の都合および実験の遅延によって、金属・半導体接合界面最適化のための試料加工の実施が計画回数より少なくなったため次年度使用額が生じたが、引き続き次年度の界面最適化実験に使用する計画である。
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Applied Physics Letters
巻: 121 ページ: 184005~184005
10.1063/5.0115928