研究課題/領域番号 |
21K20505
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
桶谷 亮介 九州大学, 理学研究院, 助教 (00908890)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | 光学顕微鏡 / 超解像観察 / ラベルフリー / コヒーレントラマン / 分光イメージング |
研究実績の概要 |
本研究では、高い空間分解能で、かつ試料の分子情報を無標識観察できる顕微分光装置の開発を目的としている。本年度は、まず、ベースとなる、白色光源を用いたコヒーレントアンチストークスラマン散乱(CARS)顕微鏡の構築・改良を行なった。超解像観察には、ベースとなる顕微鏡システムで理論に近い空間分解能を達成する必要があった。そのため、構築済みのCARS顕微鏡の照明、及び検出光学系の再設計を行なった。照明光学系では、対物レンズの開口数を十分利用できるように光路を見直し、対物レンズに入射するビームスポットの最適化をおこなった。検出光学系では、信号を効率よく取得するために、検出パスの光路長やリレーレンズの拡大率などを理論的に検証し、最適な条件で設計・構築を行なった。構築した顕微鏡で標準試料の観察を行い、改良前より小さい試料からの信号を測定できることを確認した。また、サンプルステージ及び、励起光強度を調整するNDフィルターを電動化することで、測定対象及び、測定条件の迅速かつ正確な捜索を可能にした。これらの再設計及び新規導入に合わせて、装置の制御プログラムも新たに作成した。従来から行われていたカメラシャッターと照明位置走査の同期に加え、励起強度条件の制御を可能にした。また、アルゴリズムの最適化を行い、撮像速度を向上した。実際に標準試料による動作確認を行い、CARSスペクトル及び画像の取得、励起強度の変更が可能であることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は研究目的である「高い空間分解能で、かつ試料の分子情報を無標識観察できる顕微分光装置の開発」について、超解像観察の準備として既存顕微鏡の設計・改良を行なった。どちらもおおむね順調に進展しており、次年度以降、超解像観察に移行できると考えている。 超解像観察を実現するために、ベースのCARS顕微鏡において理論に近い空間分解能を達成するための開発を行なった。新たに照明光学系を設計し直し、対物レンズの性能を十分に利用できるように入射レーザースポットを最適化した。検出光学系についても再設計を行い、信号光の効率的な分光検出を可能にした。これらの設計を実際の光学系に導入し、動作確認を行った。標準試料であるポリスチレンビーズの観察において、これまで取得できなかったサイズの試料から信号を取得可能になった。一部、白色CARS特有の問題が生じているが、解決方策の検討を進めている。CARS信号光の飽和特性を測定するための機構についても、新たに導入し、超解像観察に必要な飽和励起条件を迅速に決定できるようにした。 装置の制御に関しても順調に進んでおり、CARS信号光飽和特性の測定およびイメージ取得の制御プログラム構築が完了している。それに加え、CARS像測定の制御プログラムを見直すことで、動作速度を向上した。 以上より、超解像観察に必要な、ベース顕微鏡の分解能向上、飽和特性の測定機構、制御プログラムの構築が、順調に進んでおり、今後の超解像観察実現にスムーズに移行できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に設計・開発した測定装置の改良・測定条件の最適化をさらに進め、超解像観察を達成する。 まずは、単一の分子振動モードにおいて、開発した測定装置で超解像観察が可能であることを実証する。次に、CARSスペクトルから異なる振動モードにおいても超解像観察を行い、さまざまな分子振動モードによる高解像同時観察が可能であることを実証する。 加えて、超解像結像理論の検証も行う。超解像イメージ取得のためのポストプロセシングとCARS顕微鏡で用いられているポストプロセシングを有効に組み合わせる方法を検討する。 次に、飽和による超解像CARS観察をより迅速かつロバストに行うため、測定中に励起光強度を変調可能な照明系を構築する。音響光学素子などのレーザー強度変調装置を追加し、CARSのポンプ光強度を時間的に高速制御可能にする。制御プログラムをさらに改良し、励起光強度及び照射時間を制御しながらCARS顕微鏡観察を可能にする。構築した装置を用いて、ビーズ及び細胞試料を観察し、超解像のCARS分光メージングが可能であることを示す。 得られた結果を取りまとめ、論文及び学術講演として発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
光学系の改良の際に生じた白色CARS特有の問題に対応するため、当初の計画で使用予定だった額の一部を次年度に持ち越した。本年度末に検討した改良方法を、次年度以降に導入する。そのために必要な物品購入・開発を行い、超解像観察へのスムーズな移行を実現する。
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