研究課題/領域番号 |
21K20507
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
柳 瑶美 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 量子生命科学研究所, 博士研究員 (90911280)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | NVセンター / 全光学的 / バイオイメージング / in cells / in vivo / ex vivo |
研究実績の概要 |
近年、細胞内の局所的なpHの変化が生命現象に重要な役割を果たすことが示唆されているが、その実証には生細胞中の局所pHをin situで観測しなければならない。本研究ではナノメートルオーダーの空間分解能で物理・化学パラメータの検出が可能な窒素-空孔中心(NVC)を有する蛍光ナノダイヤモンド(FND)を用いて細胞内局所pHを計測するための技術の確立を目指している。生細胞への適用にあたり、低侵襲な顕微鏡システム(計測系)と、pH応答性やターゲッティングの妨げとなる非特異吸着を抑えたFND試料(導入系)の開発を計画した。本年度は前者の計測系の開発に成功した(Yanagi et al., ACS Nano 2021)。従来は強い赤色蛍光を発する超偏極状態にms = 0と±1のエネルギー差に相当するマイクロ波を掃引して脱偏極させ、蛍光強度の低下からコントラスト選択イメージングを行う。しかしマイクロ波の長時間照射は生体試料への影響やダメージが懸念される。そこで本研究ではマイクロ秒オーダーの自然緩和による脱偏極に着目し、奇数フレームでは自然緩和によって蛍光強度が低下するようマイクロ秒レーザーパルスのインターバルを十分長く、偶数フレームでは蛍光強度が保持されるようインターバルを短くした。さらに偶数フレームの励起光の総エネルギー量を奇数フレームの99%にすることで自家蛍光や有機蛍光色素などNVC以外の蛍光のコントラストをNVCと逆位相にした。偶数フレームの積算画像から奇数フレームの積算画像を差し引き、正強度のピクセルのみを抽出することでFNDだけを選択的に検出できた。また本手法を生細胞、線虫、海馬スライスに適用し、シグナルバックグラウンド比の飛躍的向上が達成された。この技術は細胞内局所pHのコントラストイメージングに利用できる緩和時間の計測技術そのものでもあり、その開発に成功したとも言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に示した通り、低侵襲顕微鏡システムの開発に成功するなど、当初の計画において1年目に遂行すべき項目の大部分を実施できたため。
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今後の研究の推進方策 |
FNDを細胞内に導入する際、タンパク質などが非特異吸着してpH応答性が損なわれること、ターゲッティングが困難なことが大きなボトルネックとなっている。次年度は、このようなFND試料側の問題を解決するため、生体親和性が高く非特異吸着が生じにくいだけでなく、官能基の電荷状態の変化によりpH応答性が見込める脂質をコーティング材料としてFND試料の開発を行う。そして、そのFND試料と今回構築した顕微鏡システムを用いることにより、実際に細胞内局所pHが観測可能であることを実証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:年度末、本額(296円)で購入可能な必要物品等が無かったため。 使用計画:脂質コーティングFND試料の開発に必要な機材・試薬、及び成果発表のための論文投稿費・旅費など。
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