本研究では抗菌剤コーティングを必要としない物理化学的抗菌表面性状を持った生体材料の開発指針を得るために、コロイド粒子の凝集/分散を表す代表的なモデルであるDLVO理論を応用し、生体環境における材料表面上へのバクテリア付着の予測に挑戦した。一般的な生体材料である高分子材料およびアルミナに対して、DLVO理論を用いて大腸菌の付着親和性を予測したところ、材料の表面性状から計算した予測結果と、実際の付着実験の結果が似た傾向を示した。また、これらの生体材料をウシ胎児血清(FBS)に浸漬したところ、全体的に大腸菌の付着量が減少したものの付着傾向は維持されていた。一方で、代表的な血漿タンパク質であるアルブミン溶液に浸漬した材料では、大腸菌の付着量が一定量に収束することが分かった。アルブミンは血漿タンパク質の60%を占め、吸着タンパク質層の大部分がアルブミンであると言われているが、吸着したアルブミンは他のタンパク質や有機物と部分的に置き換わる。この時、置換するタンパク質の種類や量が、生体材料の元々の表面性状に依存する可能性が考えられた。したがって生体環境のような雑多な環境においても、材料の表面性状から微生物の付着特性を間接的に予測することができることが示唆された。タンパク質などの有機物が吸着した状態で生体材料の表面性状を測定することができれば、DLVO理論を用いた微生物の付着予測の精度がさらに向上することが期待される。
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