肺癌や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの呼吸器疾患は世界中で主要な死因となっている。さらに、最近拡大している新型コロナウイルスの感染がその状況を悪化させている。これらの感染症の治療法は現在存在しないが、リスクの高い患者の早期発見と継続的なモニタリングにより、その進行を遅らせることができる。肺の機能は一般的にスパイロメトリーで検査されるが、スパイロメトリーは単点検査であり、患者が定期的に来院する必要があり、費用がかかり非効率的である。従来センサを体内へ埋め込む場合は、使用後にデバイスを回収するにはデバイスを埋め込む時と同様な手術が必要で、負担がかかる。本研究では、呼吸器系のその場連続モニタリングを可能にする、使用後に回収する必要がなく、生分解可能な埋込み型流量センサ素子を開発する。
本研究では微小電気機械システム(MEMS)技術を用いてフレキシブル小型熱式流量センサを作製した。その基板とセンサ素子としてポリイミド樹脂と金を採用した。作製したセンサの基本特性を評価した後、人工呼吸器ならびに動物実験を通して作製したセンサを用いて呼吸の計測・モニタリングを原理実証した。
次に、上記センサと同様な仕組みを通して、生分解性材料を用いて新規流量センサを作製した。そのためには、材料選択とそのデバイス作製技術を確立した。生分解性基板として水で分解可能なポリビニルアルコール(PVA)を選定し、その基板上のMEMS微細加工技術を通してデバイス作製を証してみた。センサ素子としては、生分解性金属であるMoの薄膜をスパッタリングで形成し、流量センサを作製できた。作成したデバイスを水に入れ、数日間にかけて素子が完全に分解されたことを確認した。
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